第三十二話 妖しいディーネと一緒に
「ねえ俊也くん。私と三日間一緒に寝てみない?」
「な、な、何言ってるんですか!? ダメですよ! ダメダメ!」
ディーネはすごいことを言ってきたが、それに俊也が答える間もなくすごい剣幕でサキがダメ出しをしている。相変わらずディーネはサキを意に介していないようで、軽くあしらうように、
「俊也くんを鍛えてあげるのよ。シンプルに言うと魔法の特訓。火の魔法を使いこなせるようにしてあげる。あなたギルドの仕事を受けることがあるんでしょ? 強くなったら危なくないし楽になるわよ?」
「なるほどそういうことですか……。分かりました、やります。よろしくお願いします」
「ええっっ!? 俊也さん!? 三日もディーネさんといる気なんですか!?」
「三日もって……失礼な子ねえ」
と、鍛錬を積み強くなることが好きな俊也にうまく話を持ちかけ彼の承諾を得た。しかし、まだまだ引っかかっているサキの物言いがディーネには面倒くさそうである。
「俊也さんがそうするというのなら何も言えませんが、変なことをしたらダメですよ? ディーネさん?」
「あら。久しぶりじゃないセイラちゃん。あなたも人聞きが悪いことを言うわね」
「それはそうですよ。ディーネさん、あなたは俊也さんをとても気に入ってるでしょ? 俊也さんの武器もたった100ソルで作ってあげたと聞きましたし、男好きなあなたですがそこまで入れ込んでるのは聞いたことがありませんから」
「男好きなのはあなたもでしょ? 普段清楚に隠しているのが私よりたちが悪いわ」
今まで黙っていたセイラが、静かながらなかなかきついことをディーネに言ってきた。セイラとディーネの会話のトーンは静かだが、お互いを意識し激しい火花を散らしている。どうやらディーネは、加羅藤姉妹の姉は食えない相手と認めているようだ。
「まあ釘を刺してくる子もいるようだし、俊也くんには何もしないと言っておこうかしらね……。で、魔法の鍛錬に必要な料金だけど、500ソルでいいわ。どうする? 今払えないなら鍛錬が終わってからでもいいわよ」
(サキ。この値段って高いの安いの?)
(高い! と言いたいんですけど……ほとんどタダみたいなものです。ディーネさんはあれでもこの辺りでは一番の実力を持った魔術師ですし、魔法を教えてくれるということ自体がまずありえません)
小声でサキに鍛錬の価値を訊いてみたが、この値段はありえないくらい安いということなので、俊也は快く財布から500ソル金貨一枚を取り出しディーネに渡した。
「はいありがとう。じゃあ明日の朝、私の店にいらっしゃい。他の子はついてきちゃダメよ」
取引が成立したことを示すようにディーネは俊也の手をややいやらしく握っている。サキもセイラもそれを見て俊也がディーネと過ごす三日間に非常な警戒と不安を覚えた。