第三十一話 色々に光る不思議な水晶球
ディーネの出店には数人の子供たちが楽しそうに騒いでおり、並べてある変わった商品を手に取りじゃれている。それを見ているディーネの姿は相変わらず妖艶な色香を漂わせているが、彼女の眼差しは意外にも優しいものであった。
「おねえさん。この大きな玉はなんなの?」
「これはね。魔法の水晶球なのよ。ちょっと手を乗せてみてごらん」
子供の手を優しく握り、ディーネは大きく透明な水晶球にそれを乗せる。すると水晶球は青く少しの間、弱い輝きを見せた。
「わー! 光ったよ! すごいすごい!」
「面白いでしょ? 人によって色んな色に光るのよ」
「わたしもわたしも!」
水晶球の光に興味を持った子供たちは次々とそれへ手を乗せている。その輝きは様々な色を発していたが、いずれも弱いものであった。
ディーネと子供たちのふれあいをしばらく俊也たちは見ていたが、出店に近づくとディーネは彼らに気づいたようで、
「知り合いのお兄さんとお姉さんたちが来てくれたから、ちょっとここまでね」
やんわりと、遊んでいた子供たちを遠ざけ、俊也たちへの応対を始めた。
「いらっしゃい。来てくれて嬉しいわ。竜節祭は楽しめているかしら?」
「ええ。良い物が買えました。このリュックなんですがすごいんですよ」
「あら。魔法のリュックじゃない。いい買い物をしたわね。それがあれば幾らでも色んなものが運べるわよ」
「……やはりディーネさんはこのリュックをご存知でしたか」
得意になって魔法のリュックを見せようとしていた俊也は少し残念そうだ。ディーネはその彼を見て嫌味を感じさせず笑っている。
「そりゃあね。私も結構有名な魔術師だから。それはそれとして……俊也くん、ちょっとこの水晶球に手を乗せてみてくれない?」
「さっきの子供たちのようにですか? 分かりました」
言われるがままに俊也は右手を魔法の水晶球の上に乗せてみた。すると水晶球は強い赤色を発し、昼間の今でもはっきりと分かるくらいの強い輝きでしばらく光った。ディーネはその様子を真剣な眼差しでじっと見ている。
「……やっぱりね。あなたを見た時そうじゃないかと思っていたわ」
「?? ディーネさんこれはどういうことなんです?」
「これは人が持つ魔法の適性を測る道具なの。俊也くんが手を乗せたら赤く光ったでしょ? あなたは火属性の魔法の適性がかなりあるわ。そういうわけで……」
そこで一旦言葉を切りディーネは少し考えていたが、俊也にとっては今後かなり重要になる提案を出してきた。