第三十話 買い物好きな俊也
魔法のリュックにゴツゴツした手を乗せ、ギルドの親父は俊也にこう話しかけている。
「俊也。お前さんには仕事の借りがあるし、これからもうちの仕事を受けてもらいたい。それにこのリュックは見た通りとても便利で、持ってたら仕事にでもなんでも重宝するはずだ」
「確かに。俺も欲しいとは思うけどかなり高いんでしょ?」
「まともに売ったら高い。だがお前さんに先行投資するつもりで売りたい。5000ソルと言いたいところだが、お前さんがギルドの仕事を受け続けてくれるなら500ソルで売ろう。買ってくれるか?」
500ソルでもこの世界ではなかなかの高額なのだが、俊也を見込んで大負けしてくれていることは魔法のリュックの便利さから見て確かだ。それに俊也の所持金なら、500ソル金貨一枚を支払うことは十分できる。
「よし! わかりました。これで買います。仕事もまた回して下さい」
「おお! ありがとう! これからも頼りにしてるぜ」
財布から金貨一枚をギルドの親父に手渡し魔法のリュックを受け取った俊也は、それをそのまま背負い親父と約束の握手をして出店から離れた。いい買い物が出来た彼は上機嫌である。
「俊也さんはお金を思い切って使うんですね。500ソル金貨を使う時、私たちはかなり考えてしまいますよ」
「うん。このリュックはそれ以上の価値があると思ったんで金貨を出しちゃいました。いやー、良い物買いましたよ」
「……もしかして、かなり買い物好きなんですね。俊也さん」
少し後ろで様子を見ていたセイラの所まで俊也たちは戻り、三人で楽しく話をしているが、どうも俊也の買い物好きな性質をセイラとサキに見抜かれたらしい。今後は彼女たちが財布の紐を締めてくるかもしれない。
賑やかな竜節祭の雑踏をまたかき分け、俊也たちは商店街に所狭しとある出店を見物している。タナストラスの品物が俊也にはとても珍しく見えるのもあり、買い物好きな俊也にはあれこれ目移りしてしまうようだが、そこは美人姉妹がセーブしながら歩を進ませていた。
「まあ。あれはディーネさんの出店ですね。珍しいわ」
「またあの人か~。素通りしたい……」
しばらく歩いていると、セイラとサキがディーネの妖しげな出店があるのに気づいた。長い台に紫色の布をかけて商品を置いているが、小さなドクロがついたロッドや妙な色の液体が入った透明な丸瓶など、ミステリアスな物が並べられている。
「面白そうじゃないか。行ってみようよ。何かいい物が買える予感がする」
買い物の楽しさと相まって好奇心の塊になっている俊也は、ディーネの出店に躊躇なく近づいていった。セイラとサキは「ちょっと!? 俊也さん!」と呼びかけつつ、慌てて後をついて行っている。