第二十九話 魔法のリュック
台の上に置かれたリュックは変哲がないようで変哲がある、なんとも不思議な雰囲気をかもし出している。
「これはうちのギルドに、ある魔術師がやって来た時に買い取ったものだ。ちょっと中を覗いてみてみろ」
ニヤリと笑いながらギルドの親父は面白そうにリュックの説明をしている。俊也は言われた通り首を伸ばして上からリュックの中を覗いてみた。大きいリュックであるだけに中の空間は広かったが、奇妙なのは小さなポケットが無数についていて、それを小さい透明なスイッチボタンが一つずつ覆っている。
「親父さん。何なんです? この透明なボタンは? それにこれだけ沢山小さなポケットがついてたら、却って邪魔になりませんか?」
「そこそこ! そこなんだよ! まあちょっと見ておきな。すげえ面白いもの見せてやる」
俊也の疑問を待ってましたとばかりに、ギルドの親父は傷薬が入った瓶を一つ台上にゴトリと置いた。一瓶でもそれなりの大きさがある。ちなみにタナストラスの傷薬は、回復魔法が使える癒し手が調合された薬草の抽出液に魔力を込めて作られるもので、サキもアルバイトとしてたまに町の調剤所で作ることがある。
「満タンの傷薬ですね。これがどうなっちゃうんですか?」
「どうなると思う? まあ見てな」
サキにもニヤリと笑いかけ、透明なボタンの内の一つをギルドの親父は押しながら、傷薬の瓶を開いているリュックの中に入れた。すると非常に不思議なことに、傷薬の瓶はボタンを押した小さなポケットの中に吸い込まれている。押した透明なボタンにはアイコンのように傷薬の瓶が小さく映っていた。
「ええ~~!? どうなってるのこれ!?」
「す、すごい……! どういう仕掛けなんです?」
驚く二人を見てギルドの親父は得意そうだ。二人の少し後ろで、その不思議なリュックを見ていたセイラも非常に驚いている。他の見物客も同様だ。
「すげえだろ? これは縮小の魔力が込められた魔法のリュックだ。この一つ一つのポケットのボタンにミニマイズが封じられている。一つのポケットに同じ種類の物がなんと100個まで入るんだぞ! しかもどんな大きさでもだ!」
「本当ですか!? うーん、こんなものがあるとは……」
異世界にまだまだ慣れていない俊也は、自分がいる世界ではありえないとんでもなく便利な代物を、間近でしっかり見たことにより仰天しそうである。そしてギルドの親父は、俊也にこの魔法のリュックをどうしても買って欲しいようだった。