第二十八話 礼拝の儀式と賑やかな竜節祭の始まり
翌日の朝。
竜節祭を今年も始められることを神竜に感謝する礼拝の儀式が、教会でしめやかに行われている。十字架が置かれている台座の前に神竜のレリーフが据えられており、それらを後ろにしてマリアが祈りの言葉を捧げている。セイラもサキもそれぞれマリアの左右にいた。三人とも修道服を着ている。敬虔な彼女たちの美しさが、より神竜への祈りの神々しさを増しているようだった。
「神竜ネフィラス。あなたの太古より変わらぬ平等な加護に感謝し、竜節花を捧げます。これからも私たちを御守り下さい」
礼拝の儀式も終わりが近づいている。マリアが加護への感謝の言葉で祈ると、セイラとサキがそれぞれ一輪ずつ竜節花を持ち、神竜のレリーフの前にそれらを捧げた。レリーフの神竜は純白で大きな翼を持つ翼竜が描かれている。その神竜の両目はレリーフながら厳しさと優しさ両方をたたえていることが、教会中の礼拝者の中で前列にいる俊也にもはっきりと感じ取れた。
「祈りましょう……。神竜ネフィラスの加護があらんことを……」
美しい母娘三人の修道女が静かに祈り、それに続いてソウジや俊也、他の礼拝者も目を静かにつむり神竜に祈る。数分の祈りだったが俊也には神竜のレリーフから、心の中に暖かい何かを受け取ったような不思議な感覚をわずかだが感じた。
礼拝の儀式が終わり、俊也、サキ、それにセイラは竜節祭を楽しむため、一緒に町の商店街に繰り出している。サキとセイラは修道服から着替え、サキは薄緑色のスカートと柔らかい上着の上下、セイラはサキと同じ上下だが、色が薄ピンクのそれを着ている。よそ行きの服を着た美人姉妹は、祭りの雑踏の中でも華やかに目立っていた。両手に花の俊也もそれを見てまんざらでもない。
「あっ! 俊也さん見て下さい! ギルドのおじさんも出店をやってますよ! 行ってみましょ!」
サキは相変わらず元気だ。彼女は俊也の手を引きながら、見つけたギルドの親父の出店に雑踏をかき分け近づいていく。姉のセイラは今のところ、俊也をサキに譲っているようには見えた。清楚に三歩後をついて歩いている。
ギルドの出店の前には4、5人見物をしている客がいたが、親父は俊也たちの姿にすぐ気づき、彼らに声を掛けてきた。
「おう! 俊也じゃねえか! モンスター退治じゃ世話になったな」
「どうも親父さん。竜節祭はどこも賑やかですね。楽しいですよ」
「がははっ! そりゃそうだろう! ここでも楽しんでってくれ。珍しいものがあるぞ」
ギルドの親父はそう言うと、俊也たちがいる前の台に大きなリュックを置いて見せ始めた。