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最終話 思い出のワンピース

 カラムの町の南、この森のモミの木とは不思議な縁があったように、俊也は太い幹へ腕を掛けながら思い起こしている。日本からタナストラスへ来れたのも、教会のモミの木から歪を開いたからだった。救世したタナストラスを去る時が来た今、青空に立つその大木を見ると非常に感慨深い。


「セイラさん、サキさん。今までありがとう。俊也、ジェシカさんと先に帰ってるよ。また後でな」

「ああ、またな」

「修羅さん、ありがとうございました。またお会いしたいですね」

「修羅さん、ありがとう。俊也さんといつまでもいい友達でいて下さいね」


 見送りに笑顔で応え、修羅はジェシカが白銀の宝玉で開いた歪に入り、日本へ帰っていった。


 彼はジェシカを連れて帰った後、彼女から仰天するような告白を両親の前でされている。修羅と結婚して、日本で一緒に暮らしたいと言われたのだ。驚いたものの、修羅もジェシカと当然別れたくなかった。タナストラスでのしがらみがもうない彼女の決意は固く、修羅の両親もこの銀髪の美少女を好ましく思っていたので、彼女を喜んで受け入れ、修羅の家で許婚者として一緒に暮らすことになる。


「俊也さん、お願いがあります。口づけをして下さい」

「……セイラさん、わかりました」


 このモミの木の下でセイラとはお別れである。彼女は俊也とのキスを最後のお願いとした。優しくそれに応え、俊也はセイラと口づけを重ね合う。


「また……お会いしましょう」

「はい……。よし、サキ。頼むよ」

「私とは日本でして下さいね」


 モミの木の下で歪が開いていく。涙を流しながら精一杯の笑顔でいるセイラの見送りに手を振り、俊也はサキと共に日本へ帰っていった。




「俊也さんと別れたくありません」

「俺もサキと別れたくないよ。でも、マリアさんやソウジさん、それにセイラさんもタナストラスで待ってるだろう?」

「そうです。だから、ちゃんとキスをして下さい」

「そうだな。わかった」


 サキと最初に出会った教会のモミの木の下、俊也はサキとお互いを確かめ合うように「ちゃんとしたキス」をした。長い長い口づけを交わした後、サキは可愛い顔をくしゃくしゃにして泣き、


「また……会いましょうね」

「うん、会おう」


 彼女の温かい家族が待つカラムの町へ、真紅の宝玉の力で帰っていく……。




 数年後、俊也と修羅は受験を何とかクリアし、大学生になっていた。彼らほどの剣道の腕があれば、推薦入試も使えたのだが、敢えてそれをしなかったらしい。


「次の講義まで時間があるし、弁当を食うかな」


 大学構内で気に入っている青空のベンチに腰掛け、俊也が昼食を取ろうとしていると、


「お隣、いいですか」

「座りますね」


 一点の曇りもない生地の浅黄色のワンピースを着た目の覚めるような美しい女性二人が、彼の両隣に座ってきた。何が起こったのかと彼女たちの顔を見ると、それは大人の美しい女になったサキとセイラである。


 赤髪と黒髪の加羅藤姉妹は笑顔で、驚いている俊也の頬に、それぞれ軽くキスをした。


 ベンチの傍では青の花菖蒲が数輪、陽光に照らされ葉を揺らしている。


                                  おわり

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