第二百七十六話 ただいま
ネフィラスは無限の草原へいつの間にか来ていたカラとアリスに、カーグを託した。その時、カラは、
「可愛いねえ。そういえばよく寝る子だったよ、カーグは。そうだそうだ、アリスちゃん。お願いがあるんだけどね」
「はい、仰って下さい」
「カーグが大人に成り直したら、お嫁さんになってくれないかい?」
「喜んで承ります。千年でもお待ちしましょう」
アリスはそこで初めて嬉しそうな笑顔を見せた。あまりに可憐なその笑顔は、辺りの草原を花畑に変えている。カラはホッとした様子でアリスに赤ちゃんのカーグを抱かせた。彼女の柔らかい腕の中ですやすやと無邪気な寝顔を見せている。その小さな頭の上には『七色の聖輪』が静かに輝き、新たな生を受けた冥王を慈しむように守護していた。
転移の魔法陣で英雄たちは帰還した。セイクリッドランド大聖堂では儀仗隊の凱歌と共に、国民こぞって歓喜の声で俊也たちを出迎えている。ある者は喜びの涙を流し、ある者は満面の笑みを見せる。
「全て終わりました」
「うむ! よくやってくれた! 我が国が誇る聖騎士よ! まあ共に喜び合いたいわけなんじゃが……俊也さんと修羅さんの帰りを待ちわびている者がいるじゃろう? 行ってあげなさい」
「そうだよ。そこはちゃんとしておかないとね」
レオン法王にラグナロク終結の報告をしようとまず来たのだが、そう促されてしまった。ネフィラスにも順序が逆だとやんわり咎められている。若き救世主たちも分かってはいる。シャイな彼らは照れくさいのだ。
ネフィラス神殿では最愛の彼女たちが出迎えてくれた。真の英雄となった俊也と修羅を支え続けてきたサキ、セイラ、ジェシカは、無事な最愛の彼らを見て緊張の糸が切れたのか、みんな涙を流している。
「ただいま帰りました」
「おかえりなさい、修羅さん」
感情を出すことが少ない銀髪の美少女も、この時ばかりは修羅に駆け寄る。そして、修羅はジェシカにしっかりと彼を感じさせる強い抱擁で応えた。
「ただいま」
「おかえりなさい、俊也さん。ずっと心配してたんですよ」
「おかえりなさい。ご飯をこしらえてお待ちしておりました」
サキとセイラは我慢することなく俊也に抱きついた。彼は力強い腕で、しっかりと加羅藤姉妹を抱きしめている。サキとセイラは、生きている最愛の俊也をその身でいつまでも感じ取っていた。
気ままなタナストラスの主神はいつの間にか歓待の席を抜け出し、手頃な腰掛けへ座り、大聖堂とネフィラス神殿を居眠りしながら見守っている。