第二百七十四話 冥王カーグ・母公認の兄弟喧嘩その2
三方向へ毬を勢いよく蹴り飛ばしたように、俊也と修羅、ネフィラスは、弾かれてしまった。三者三様にかなりの打撃を受けているが、立って動けないことはない。予想外の衝撃を受けた身体を何とか起こし、俊也たちは刀と剣を構え直して、荒れた呼吸で再びカーグと対峙する。
打撃で体力を奪われたのはネフィラスも同じである。そうした状況の中、彼は回復魔法の集中を行い、自身だけでなく、ネフィラスが変化させ創り出した光子の刀を通し、離れた俊也と修羅をも全快させた。得物を構えつつもここまでの急展開に、若き救世主たちは心身がついて行けていない。
「兄は強いよ。想像を遥かに超えている」
「斬れたはずなのに、俺たちはなぜふっ飛ばされたんですか?」
「黒の外套をカーグは纏っているだろう? そこから漂っているオーラと、外套を斬り破らないことにはどうにもならない。私たちが吹き飛ばされたのも、兄の強大な黒きオーラのためさ」
「ということは逆に言えば、やることは分かっているわけですね」
「そういうことさ。弾かれようがどうなろうが、黒の外套を斬るしかない」
最後の戦いをどう進めるかは十分わかった。ただそれが分かったといって、超越的な力を持つ、冥界を統べる神を斬れるのかどうか見当のつけようもない。
「一対一にならないことだ。我々の誰かが欠けても終わりになる。行ってみるしかない」
「考えてる場合じゃないですね。よし!」
「行きましょう! ぶつけてみるしかない!」
覚悟はとうに決まっている。俊也たちは呼吸を合わせ、探りの攻撃を入れた時より完成度が高い連携で、カーグに光の斬撃を見舞った! カーグの身に、傷は一つもつかない。しかし黒の外套から漂うオーラは、聖なる光の斬撃を受け、少し力が薄くなっている。
「そんなものか。そんなことでは私は力尽きんぞ!!」
『ぐわっ!!』
再びネフィラスと救世主たちは槍撃を受け弾き飛ばされた! こちらの攻撃は効いている。冥王の槍が俊也たちを穿つのが先か、神竜の剣と2振りの光子の刀が、カーグの甚大なオーラを断ち斬るのが先か。身体にやや深い傷を負った俊也と修羅は、勝てる自信を持つことができない。
(手を止めたら終わりだ!)
戦いを止めるわけにはいかない。勝って帰らなければならない。ネフィラスの回復光を受け、何度も何度も己を奮い立たせ、救世主たちは冥界の神に斬りかかり、挑み続ける。諦めの悪いドンキホーテたちはボロボロになりながら、ついに冥王カーグの黒きオーラを斬り破った!