第二百七十二話 勝手すぎるんだよ!!!
「だが、ネフィラス。私にはお前の世界の人間を許すことができない。お前への憎しみも捨て去ることができない。いや、憎しみというより嫉みと言えば近いか。決心を持ち聖輪に変化した妻は、弟のお前が持つ力と共に、人間達がいがみ合っていたタナストラスを治めることになった。私は思い続けたよ。なぜ私にその力がなく、ネフィラス、お前なのかと」
「そのことは、私にとっても重い負い目になっているよ。同じことを思ったよ。なぜ私で、なぜ兄のカーグではないのかと。結果的に義姉さんを奪うことになってしまった」
二千六百年ぶりに直接向き合っているネフィラスとカーグの邂逅が続く。冥府の最深部からは、大窓を通して陽光が照らす木々や草花を観て楽しめるが、カーグにとっては、その緑の息吹が歯がゆく感じる時もあっただろう。
「いずれにしろ、お前とはもう決着をつけなければならない。そうなってしまったのだ。妻はそこにいるようだが、ネフィラスの味方をしているということはそういうことだ。私が間違っているにしろ何にしろ……ネフィラス、そして俊也と修羅、もう剣を抜け」
弟への理解と憎しみは別なのだろう、戦いを避けることはもうできない。カーグは空間から漆黒の冥王の槍を呼び出し、その両手に取った。俊也たちもそれぞれの剣を抜き、非常な決意で最後の戦いに臨もうとしている。その時、
「カーグ、お前はなぜ母さんにそれを言わなかったんだい? 私に相談してくれれば、まだ他に道はあったかもしれなかったのに」
「母上……申し訳有りません。ですが、私はネフィラスと喧嘩を今一度致します」
天から創生の女神カラの、我が子たちを案じる声が下りてきた。心配が過ぎて、邂逅の一部始終を見ていたのだろう。
「……仕方がない子だね。じゃあ、母さんが場所を作ってあげるから、気が済むまで喧嘩しなさい。ネフィラス、俊也君と修羅君、すまないけど頼んだよ」
カラの言葉が終わるや否や次元と空間が歪み、気がつくと、どこまでもだだっ広い平野が続く野に彼らはいた。青い低草が果てしなく生え続ける大地だ。
「ここは……。思い出すね、兄さん。私が幼い頃、母上がよく連れてきてくれた場所だよ。兄さんはここでよく遊んでくれた」
「ふっ……。母上にとっては、あの頃と何も変わらないように見えるのだろう。では参るか」
「カーグ様。戦う前に、一つ言っていいですか?」
なぜか俊也はキレかけている顔だ。俊也だけではない、修羅も同様である。どうしたというのだろう?
「なんだ? 言ってみろ」
「あんたの辛さは分かるよ。でも、ここまでカラ様もネフィラス様も、それに奥さんも心配してくれてるのに、勝手すぎるんだよ!!!」
光子の刀を構え、ブチギレた俊也の右手首では、彼に同意するように『七色の聖輪』が、一際まばゆい煌々とした守護の光を放っている。