第二十七話 神竜ネフィラスと竜節花
加羅藤一家と俊也との和気あいあいとした話の後、ソウジは行商の疲れを取るため少しベッドで休んでいる。彼が戻ってきたのは昼を少し回った頃で、夕方まで眠るつもりなのだろう。
「この花菖蒲は、こっちの世界では竜節花と言うのか。ソウジさんがちょっと言ってたけど、この花の詳しい由来を知ってたら教えてくれないか? サキ?」
「はい。今からずっと昔に神竜ネフィラスが生まれた時、その生誕を祝うかのようにこの花がネフィラスの周り一面に咲いたと言われています。ネフィラスは成長し大きな竜になった後、大昔のタナストラスに君臨し人々を苦しめていた大魔王カーグと激しい戦いを行い、かろうじて勝利しました。そしてカーグは冥府の奥深くに封印されたと言われています」
俊也とサキは教会の庭に出て花菖蒲に似た花……竜節花を見ていた。さっきの団欒の中で竜節花と、その花が咲く頃にタナストラスの各地で催される竜節祭の話が出てきたので、俊也は興味を持ちサキに訊いてみたのだが、日本で俊也が趣味としてよく読んでいたファンタジー小説のような壮大な花の由来を聞けたので、彼はかなり驚き、興味もひとしおになっている。
「それはすごい話だな……。で、神竜ネフィラスが生まれたとされるのが明日で、カラムの町でも竜節祭が盛大にあるわけなんだな」
「そうですよ~。俊也さん、時間はまだいっぱいありますし、明日は一緒にお祭りを楽しみに行きましょう。羽根を伸ばすのも大事だと思いますよ」
「そうだな。この世界の大きな祭りがどんなものか見てみたいし楽しみだ。そうしよう」
俊也とデートの約束を取りつけることができたサキは、俊也から見えないように小さくガッツポーズをしていた。そして、再び俊也の方を向いたのだが……
「私もご一緒しますよ。色々見て回りましょうね? 俊也さん」
いつの間にか俊也の傍に寄り添っていた姉のセイラの姿を見て、サキは唖然としている。セイラが俊也と口づけを交わして以来、サキはこの姉に対する警戒を大にしていた。
「近い近い近い!」
と、まずは近すぎる二人を強引に引き離し、
「姉さんも一緒に来るの……?」
非常にジトッとした不機嫌そうな顔でセイラを見ているサキである。
「それは行くわよ。毎年一緒にお祭りには行ってるじゃない」
「わかった……でも、この前みたいなことを俊也さんにしたら絶対ダメだからね!」
「わかりました。一応は」
(一応ってなんなの!)
火花を散らす美人姉妹の迫力に俊也はタジタジだ。竜節祭は楽しいものになるだろうが、彼の女難はまだまだ続きそうである。