第二百六十三話 死神タナトス・デスゲームその2
紫の光弾は無数に飛んできたとしても『七色の聖輪』が防いでくれる。しかし、タナトスが持つ大鎌の一撃を防ぐことは、この聖宝具をもってしても無理だろう。もしかすると、この異世界における最強の攻撃は、あの大鎌から繰り出されるものかもしれない。
「俊也、時間はない。どうする?」
「小細工を使ってみよう。こっちから斬りかからないと俺たちは終わりだ」
「魔法か?」
「そうだ」
死の宣告後10分経てば、俊也と修羅に確実な死が訪れる。もたもたしている時間などない。手短に示し合わせると、二人は魔法の集中を行いつつ再びタナトスに対して左右に素早く散った。白翼の死神は沈黙を保ち悠然と大鎌を持ったまま、彼らが仕掛ける小細工を待っている。
「ファイア!」
高速の移動を『胆力の集』を用いた脚で彼らは行った。先んじてタナトスに仕掛けたのは俊也だ! 大鎌の間合いを掴み、攻撃が届かないギリギリの距離から魔力の火炎を死神の側面に向けて放つ! その炎の塊は、タナトスが一つ純白の翼をはためかすと、あっさりかき消されてしまった。だが、俊也はそれに構わず死神の右側面に回り込み、光子の刃による胴切りを打ち込んだ!
「それではまだまだですね」
「なにっ!?」
タナトスのバランスを崩すことを狙った攻撃であるが、この死神はどこまで強いのか、それすら非常に困難である。ちらっと右を見ると紫の大鎌の柄で、タナトスは山をも斬るかというほどの渾身の斬撃を軽くあしらった。その柄の軽い動きだけで、俊也の体は後方へ吹き飛ばされる!
「ショックウェーブ!」
それでもタナトスは俊也の捨て身の突撃を受け、有りか無しか、ほんの僅かにバランスを崩していた。時間として表すと一瞬である。左に散っていた修羅は、それをほとんど剣の本能的に突き、魔力の衝撃波を死神の左側面目掛けて放つと同時に、最短の踏み込みと軌道で突きを繰り出す!
修羅の捨て身の突きは、タナトスといえど軽くあしらうことはできなかった。半身を引き、がっしりと大鎌で、天をも穿つ渾身の切っ先を受けきっている。鍔迫り合いの状態だが、一対一で敵う相手ではない。転瞬、ひねられるように修羅は後方へ弾き飛ばされた!
「む? ほう、そう来ましたか」
鍔迫り合いで修羅を吹き飛ばし、軽く崩れたバランスを整えようとした僅かな瞬間であった。時間など幾ばくも経っていない。それでも、タナトスのいなしから受け身を何とか取り、立ち直った俊也が、飛燕の速度で踏み込み放った袈裟斬りは、薄く死神の皮膚から血を滲まさせていた!