第二百六十二話 死神タナトス・デスゲームその1
恐らく次元を歪ませた場所にこの『生死の間』はあるのだろう。不自然な広がりを持つその中央部に、俊也と修羅、そしてタナトスは移動していた。冥界の格子戸と回廊上層部の出口の中間に位置する所だ。これだけの空間なら三者の力が如何に強大といえども、壊れることはないだろう。
「では参りましょうか。準備と覚悟はよろしいですか?」
「腹は括りました」
「気構えはできています」
若き救世主たちの心づもりを聞いたタナトスは、微笑を浮かべている。そして、何もない空間から鮮やかな紫色の大鎌を呼び寄せ出現させると、それを俊也と修羅がいる方へ向けて軽く振った。一陣の黒い霧を伴った駿風が彼らの身体を通り過ぎると、俊也と修羅の右手甲に、タナトスが持つ紫色の死神の大鎌と同じ紋様が浮かび上がっている。それと同時に、彼らは今持つものを遥かに超える、自身の湧き上がっている力に驚いていた。
「驚いている暇はありませんよ。あなた達の命は10分しか残されていません。早くかかってきなさい」
無論、タナトスは手を抜く気などない。潜在能力を超える力を得たとはいえ、二人は光子の刀を構え、大鎌を悠然と持つ白翼の死神と対峙すると、
(これは!? ネフィラス様より強いのでは!?)
若き救世主たちは強いがゆえに、タナトスの力を正確に測らざるを得なかった。だが、一太刀浴びせなければそれで終わりである。俊也と修羅は示し合わせ左右に散ると、消えたかと思うほどのスピードで死神との距離を詰め、次元も斬らんばかりの刃を同時に打ち込んだ!
攻撃による凄まじい衝撃波が同心円状に広がっていく! しかしどのように操れば、その大鎌で彼らの攻撃をあしらえるのか。タナトスは何事もなかったかのように渾身の斬撃を受け流すと、純白の翼で高く舞い上がり、俊也と修羅を神の視点で見下ろした。
「次はこちらから参りましょうか」
絶大という形容を超えた力を持つ死神にとって、これは戦いではなくどこまでいっても「ゲーム」なのだろう。平静そのものの穏やかな表情で、俊也と修羅に左の手のひらをかざし向けると、無数の紫色の光弾が現れ、二人に向かって光速の絶え間ない豪雨のように飛んでいく!
(どっちにしろ終わりか……)
圧倒的なタナトスの攻撃に、救世主たちは諦めの覚悟を思った。だが、彼らは光弾の豪雨を受けても無傷で立っている。『七色の聖輪』が魔力を中和する守護結界を張り、俊也と修羅を守ったのだ。
「ほう。彼女もあなた達を気に入っているようですね。これなら面白くなりそうです」
タナトスは再び地に降り立ち、救世主たちの真価を敢えて待っている。