第二百六十一話 ルール
「まあ、にべもなくあなた達を追い返すのは簡単ですが、一つゲームをしませんか? なあに、ただ遊ぶだけではありません。あなた達にとって、とても有用なゲームです」
「……タナトス、あれを俊也君たちにさせるつもりなのか?」
「そうですよ、ネフィラス様。いやいや、怖い顔をなさらないで下さい。私はネフィラス様に肩入れするつもりで勧めているのですから」
至極普通な調子でタナトスは話している。しかしネフィラスは、この死神が「ゲーム」を提案したことに対し、苦虫を噛み潰したような表情に一変してしまった。タナトスは「ゲーム」の内容について、まだほとんど何も言っていない。何か裏があるはずだ。
「どういったゲームなのですか? 教えて下さい」
「あなたは冷静沈着そうですが、乗ってきましたね。いいでしょう、説明しましょう。私は死神です。そして、あなた達にあることをすれば、潜在能力を遥かに超えた力をそれぞれにおいて引き出すことができます」
「俺たちは、今ここで強くなれるということですね」
「そういうことです。死の宣告と引き換えにね」
絶大な力を持つ死神からの死の宣告。それは逃れられない確実なものだろう。あまりに厳しいゲームの前提条件に、俊也と修羅は二の句が継げず、凍りついたように固まってしまった。
「ふふっ、分かっていますよ。若く元気が良いあなた達は死にたくないでしょう。当然です。だからゲームをして頂こうと勧めているのですよ。死の宣告を発動した後、あなた達の力は増大します。制限時間は10分です。その力を使って私と戦い、一太刀でも浴びせることができたら死の宣告を解きましょう。その際、あなた達の増した力はそのまま残ります。どうです? 面白いルールでしょう?」
『…………』
死神タナトスにとって生と死の区別というものは、ゲームのルールとして用いる程度の重要性しかないのかもしれない。しかしながら、二人の年若い救世主は生きている。生きてやりたいことは、これから数え切れないくらい人生において出てくる。そのことを思い、ネフィラスを含めて、彼らは「面白い」提案に、しばらく沈黙を保たざるを得なかった。
「いいですよ。俺はそのゲームをやります」
「僕もやります。ここまで来たんだ。今の力で役に立たないとしたらやるしかない」
「……本当にいいのか? タナトスの強さはあの魔剣士の比ではないよ? 君たちも分かっているはずだ」
「はい。だからこそ、やってみたいんです」
二人は同じ目をしている。それはタナストラスの救世主というより、命を賭してどこまでも高みに挑む、剣の修羅の双眸であった。