第二十六話 加羅藤家の大黒柱
紅茶とトラネスの名物菓子を囲んでの団欒は続いている。ソウジは話をしながら、俊也がギルドからもらったカラムの町周辺の地図より、もっと広い範囲が描かれている大地図をテーブルに広げていた。付け加えると、俊也が持っている地図にはカラムの町内の詳しい案内図が載っていて、ソウジが広げた大地図には複数の町の案内図が裏面に載っている。
「今食べてる菓子を買ったトラネスの町は、カラムの町から街道を通って南東に行った所にある。規模はカラムの町と同じくらいで大きな川が側を流れている。川船を使った産業が盛んな町だよ。で、ジャールの町の方はカラムの町から北の街道をほぼまっすぐ行った所にある。町の規模は私たちの町よりやや小さいが、近くに高山があって山林を利用した産業が盛んなんだ」
「あなたとの新婚旅行はジャールの温泉だったわね。懐かしいわ~。ひなびたいい所だったわね」
「はははっ。もうあれから17年も経ったんだな。今度は皆で一緒に行こう」
ソウジは大地図を指し示しながら、俊也に2つの町と周りの地理の解説をしてくれた。話を一緒に聞いている妻のマリア、娘のセイラとサキも思い出を起こしながら楽しそうである。
「さてと……私の話はこんな所かな。俊也君。なんでもいい。君の話を聞かせてくれないか?」
「分かりました。話をするのにそんなには慣れていませんが話してみます」
「ありがとう。たどたどしくてもいい。ゆっくり話してくれればいいよ」
日本から異世界のタナストラスに来ることになった経緯や、自分が積み重ねてきた剣道の鍛錬のこと、自分が大好きな両親のこと、日本とはどういう所かなど、俊也は途中つまりながらも、一生懸命ゆっくりと丁寧にソウジに向かって話した。ソウジ以外の加羅藤家の皆も、興味深そうに時折笑顔を浮かべながら俊也の話をしっかりと聞いている。
「なるほど。よくわかった。君はこれからとてつもなく強くなれる可能性を持っているだけじゃなく、今でもかなりの剣技を持っているんだな。頼もしいよ。本当にこの世界に来てくれて良かった」
「はい。でも……まだタナストラスが不穏な原因がどの地域でもつかめていないそうですね」
「……それなんだよ。何かはあるはずなんだがね……。まあ、俊也君がもっと強くなって勇名が広がる内に新しい情報が入ってくるだろう。それと君には次の行商の時に護衛として来てもらいたいんだ。他の町に行けば違う情報も入るだろうしね。頼めるかい?」
「はい! 願ってもないことです! こちらこそお願いします!」
「はははっ! ありがとう。報酬もちゃんとした額を出させてもらうよ」
見た目は柔らかく穏健ながら、加羅藤家の大黒柱としての存在感と器量を俊也はソウジから感じている。俊也はこの人から学ぶ所は数え切れない程ありそうだと、ソウジの目を見て話をしながらこの先達に尊敬の念を抱いていた。