第二百五十九話 冥府への回廊・上層~生死の間
広い空洞が続いている冥府への回廊は、歩けど歩けど永遠に終わりは見えないかと思われるくらい深い。太陽がない地下を進んでいるため、余計そう思われるのだろう。俊也たちは時間感覚が狂ってしまわないように、用意していた時計を確認しつつ、とにかく歩き続けた。この広大な回廊は、魔法のロッジが展開できるほどの広がりがあり、休息は問題なく取れている。
根気よく歩き続けロッジで二晩眠り、さらにしばらく歩き続けると、奇妙な場所に辿り着いた。そこで回廊は一旦切れているのだが、換わりに右手と左手は端が見えないほど、天井はあるが、回廊のそれより遥かに高く、そして遠く向こうには、赤褐色の壁が見える。とにかくこんな地下にどうやって? と思うほど広さがあるのだ。
「ここに出たということは……やはりあいつが居るだろうな」
「ネフィラス様? ここのことを何か知っているんですか?」
「うん。まあ多分、君たちも分かることになるよ。ちょっと遠いけれど向こうまで行こう」
はっきりと言わないがネフィラスの表情から、この場所があることは、あまり望ましい状況ではないと、俊也と修羅は読み取った。ただ、先に何が待ち受けていようと、ここまで来ているのだ。進むしかない。
立ちはだかるようにどこまでも続く赤褐色の壁に近づいていくと、大きな格子戸の前に、白い翼を背中にもつ金髪の青少年が立っている。あるいは青少年に見えるだけで、ネフィラスと同様、とてつもなく長い歳月をその姿で過ごしてきたのかもしれない。
「お久しぶりです、ネフィラス様。久しぶりすぎて、前にお会いしたのがいつだったか忘れてしまいましたよ」
「懐かしいなあ。兄を封印した時以来だね。それにしても律儀に何千年もよくここに居続けたな、タナトス」
「それが私の務めですからね。何よりこの『生死の間』に居るのが一番落ち着くのです」
タナトスというと、俊也たちの世界にも同名の神がいる。ギリシャ神話の死神だ。爽やかな笑顔で話している彼が死神とは思えないが、果たしてどうなのだろう。
「ネフィラス様、あのタナトスという方は?」
「彼は死神だよ。そうだな……タナトス、私が治める世界がタナストラスと言われる由来を彼らに話してあげてくれないか?」
「分かりました。お近づきの印に、お話しましょう。そう長い話ではありませんよ」
白き翼の好青年としか見えないタナトスは、死神だという。そんな彼から死の匂いは感じ取られない。しかし、自然体でいるタナトスの力から発せられるオーラは、ネフィラスと同等な威容で、俊也と修羅の今の力では及ぶべくもなさそうだ。