第二百五十六話 消えない灯火
冥竜の消滅により、光の軍は最終戦争に勝利した。ある者は歓喜の雄叫びを上げ、ある者は感涙が止まらない。この世が残るか否かの戦いに勝ったのだ。そのことを喜び合わない者は、セイクリッドランド軍において一人もいなかった。しかし……
「ネフィラス様、それはまことですか?」
「うん。私が倒したのは、あくまでカーグの写し身だ。写し身をいくら叩いても冥王カーグを倒したことにはならない。冥府に行き、本体を倒さなければならない。そこでの戦いは、私にとって不利なものになるだろう。反対に冥王カーグの力は完全に発揮される。今度は本物としての力でね」
「なんと……うーむ、これは皆に知らせることはできませぬな」
闇の軍を打ち破った後、陣で緊張をすっかり解き、安息を取っていたレオン法王に、避けることも隠すこともできない事実をネフィラスは話した。法王の顔は戦いの前ほどではないが、再び険しいものに変わっている。
「分かりました。俺と修羅が冥府についていきます。逆に考えると、あと少しということですよね?」
「ありがとう、俊也君。だが君と修羅君は、あの可愛い赤ちゃんと斬り合って、大傷を負っただろう? しっかり回復してから冥府に乗り込もう」
あの赤ちゃんとは、言うまでもなく転生したネロのことだ。今はサキの腕に抱かれ、すやすやと無邪気に眠っている。
「なるほど、そうですね。時間は幾らかあるということですね」
「そういうことだよ。戦いに無事勝てた。その分、時間はある」
冥王の絶大な力は滅びていないが、絶望的な状況でもない。それを理解した俊也は、ネロを抱きかかえているサキの所へ行き、玉のような赤ん坊の頭をゆっくりと優しく一撫でした。
カラムの町の春は暖かく活気があり、青空を舞う小鳥たちも元気な声で鳴き合っている。
「ふふっ、おしめを換えてた子供の頃を思い出すわ~。いい子ね~、ネロちゃん」
「キャッ! キャッ!」
俊也は赤ちゃんに転生したネロを引き渡すため、転移の魔法陣を用いてディーネの店に来ていた。ラグナロクに俊也たちが向かった時、最愛の弟の死は覚悟していたディーネだった。それゆえ、俊也がここに抱きかかえて来た赤子のネロを見て、彼女はその時、愕然としている。1年近い付き合いになるが、俊也にとってディーネの心底驚いた顔を見たのは、それが二回目だった。転生の玉のことは、彼女にも一通り話している。しかし、本当に生まれ変わったネロが戻ってくるとは、露にもディーネは期待していなかったようだ。