第二百五十五話 仮初(かりそめ)の力
聖の力場が利いてる天空で、神の強大な力同士がぶつかり合う。強大という形容は薄すぎるかもしれない。衝撃でタナストラスが揺れ続けるほどの殴り合いが続いていた。
「法王! 御覧ください!」
「うむ。我が神は御強い!」
少しでもネフィラスの助けになればと、レオン法王は剣を天に構え、祝福を送り続けている。そして、信仰してくれる人間の祈りに応える形で、ネフィラスはカーグの写し身を徐々に押し、優勢に立っていた。これは予測通りではある。自身が守護するタナストラスの大地での戦いは、ネフィラスの神力が完全に発揮され、カーグの強さは減衰する。さらに、サキたちが必死に創ってくれている、セイントライトフィールドの結界もある。神竜ネフィラスに有利な状況しかないのだ。だが、
(恐らく、兄の写し身の力は6割程の完成度でしか作られていない。それなのにこの強さは……)
そう世界の主神は驚愕していた。カーグは冥竜と化している。しかし、あくまで仮初の力なのだ。この北限の大地においてネフィラスは勝利を確信しているが、彼はその先に向けて、ほんの少しの焦りを覚えた。
神と神の戦いは続いている。カーグは空間をも切り裂くかという黒の鉤爪で、ネフィラスの顔をえぐり掛かって来た! 見切りと共に身をかわしたネフィラスの右頬を、鋭爪による斬撃が薄くかすめる。ほんの薄く神竜の顔に血がにじみ、攻撃が空を斬ったカーグの体勢は崩れている。その機会を逃さず渾身の打撃を、ネフィラスは右腕の膂力で冥竜の胸に見舞った! 衝撃波を伴った絶大な一撃はカーグの写し身を吹き飛ばし、黒翼の竜は受け身も取れず、残雪が深く残る高山の麓にめり込んだ!
「グッ!? クオオオオォォォオオ!!!」
「クオオオオォォオオ!!!」
大陸中に響き渡る神竜と冥竜の咆哮が発せられたかと思うと、漆黒の獄炎と光輝く聖炎、二竜が吐くブレスのぶつかり合いになる! 相反する力同士、凄まじいエネルギーの相殺により、空間に別次元の世界が見えかけていた。ブレスのエネルギーは聖炎を吐いたネフィラスが勝っており、カーグの写し身をここでも押していき、彼の黒き身体を光の息で覆い尽くす! 浄化の炎によるダメージは、冥竜の体力と動きを確実に奪った。
(終わりだ! 兄さん!)
ネフィラスは神々しい白き翼で一直線にカーグへ止めを刺しに行く! 力を失いかけている黒き冥竜にそれを防ぐ手立てはない。
(冥府で待っているぞ)
その一言だけをネフィラスの心に残し、兄カーグの写し身は弟ネフィラスの神速のぶちかましを受け、消滅した!