第二百五十一話 魔剣士ネロ・最終戦その1
人を大きく超えた力を身につけた俊也と修羅に対し、ネロは寸分も侮っていない。漆黒の剣を既に抜いており、体を開き、全ての攻撃に備えて構えを取っている。カラムの町で戦った時と二人は別人であることを、彼は十分に認識していた。
(俺たちの今の力でも五分五分くらいか……なんてやつだ)
(1対1の強さではネロが上だ。だが、俊也と連携すれば勝機はある!)
禍々しいオーラを放つ漆黒の魔剣士、その彼が持つ力を対峙しながら、二人の救世主は正確に把握している。光の剣士二人と闇の剣士、力は同等、後は全力でぶつかり合い勝負をつけるのみだ。
「いくぞ!!!」
「応!!!」
隙がないネロの構えに、ほんの僅かな揺らぎを俊也と修羅は見出した。同時に気合声を肚から発し、雷弓の矢かと思うほどの超高速で、漆黒の剣士に斬りかかる!
「オオオオオォォォ!!!」
ネロは彼らの全力の斬撃に応じ、二本の光子の刀を漆黒の剣で完全に受けきった! 相反する力のぶつかり合いは同心円状の衝撃波となり、辺りにいる高位の魔物すら、それにより吹き飛ばされんばかりである。
「はああああっっっ!!!」
暗黒の魔力によるものだろうか、斬撃を防がれたことによる僅かな驚愕の緩みを俊也と修羅に見出すと、異常な膂力で漆黒の剣を振り払い、二人の体勢をネロは崩してきた! 間髪入れず、右方でバランスを崩している俊也に、風をも断つかと思われるほどの斬撃を加える! 既で体勢を戻すと、俊也は漆黒の魔剣をかろうじて防いだ。隙が出来たネロの左には、修羅が居る。彼はそれを逃さず、
「さっ!!!」
胴斬りと突きを合わせた、目で追えない高速の連続技でネロに素早く攻撃を加えた! 浅手だが、突きが命中している!
「面白い。俺は生まれてきて、今が一番幸福かも知れぬ。お前達と斬り合うための、この命だったのだろう」
「…………」
刃を交えた三人は、一旦、間を取った。左脇に受けた浅い傷を、魔剣士ネロは気に留めもせず笑った。全力で斬り合える相手、それに出会えた喜びによる笑いだ。そして、剣の申し子である二人の救世主も、切迫した戦いの中で、ネロと同じことを感じていた。
(僕たちはよく似ている。似すぎているほどだ)
一方は世界を壊すため、一方は世界を守るため、真反対の目的で最終戦争を戦っている。だが、全力の剣を通した彼らは、互いが同類であることを充分、認識していた。
「いずれにしろ、俺たちは斬り合うしかない。今度はこちらからいくぞ!」
言葉が早いか、身が速いか。寸虚を突かれた修羅の目前に魔剣を振りかぶったネロが現れ、全てを断ち切る斬撃を脳天に加える!