第二百五十話 姉への情と人への憎しみ
力の限り斬り進んではいる。しかし、俊也、修羅、ネフィラスの力を持ってしても、闇の魔物達で作られた壁は厚く、思うように前へ進めない。
「撃つぞ!! どいてろ!!」
分厚い闇の壁に対し奮闘中の俊也たちへ、大声で呼びかけたのはバルトであった。愛用の蒼い大弓に矢をつがえ、雷速一閃の一撃を放つ! その雷撃の矢は、どこまでも続くかと思われた魔物の壁をも大きく穿ち、俊也たちの目前に道を作った! 開けた視界を覗くと、闇の軍を統率している魔剣士ネロの姿がそこにある。
丁度その時、イットウサイとノブツナが飛燕のような速度で援軍に来てくれ、魔物の軍を穿ち、目前にできた道が塞がらないよう、次々と敵を斬っていく!
「こっちが落ち着いたんでな。助太刀に来たぞ」
「ここは私達に任せて、大将を倒してきなさい」
剣師二人のこれ以上無いありがたい助けに応える形で、俊也と修羅は感謝のうなずきを見せると、ネロを斬るため『胆力の集』を用い、超高速で突き進もうとした。だが、ネフィラスはなぜか安全な後ろに下がっている。
「私は『漆黒の玉』から生じるカーグの写し身を倒すため、竜に姿を変える。力を溜めるのに時間がかかるよ。敵軍の大将を倒すのは君たちに任せた」
恐らく、写し身とはいえ冥竜となるカーグに対抗出来るのは、これから神竜に変化するネフィラスだけであろう。俊也と修羅に今できる最善のことは、魔剣士ネロと決着をつけ、北の大地に展開する闇の軍を消滅させることだ。二人の救世主はネフィラスの言葉に納得すると、因縁を断つため一直線にネロの待つ、敵軍の中心部へ進む。
「力をつけてきたようだな。これで殺し甲斐があるというもの」
凄まじい暗黒のオーラが魔剣士ネロから漂う。彼はここで、ただ待っていただけではなさそうだ。来るであろう救世主たちと対峙するため、全力を出せるよう集中が完全に高まっている。
「一つ聞きたい。お前がディーネさんを殺さなかったのは、姉弟の情からか?」
「……だとすると、どうだと言うのだ? 私は人間を憎んでいる。怨みがある。人間に復讐するため、この力を得た。私の目的は一つしかない」
「情が残っているということか……」
ネロが冷徹さと非常の塊なら、俊也と修羅は迷いなく斬れた。しかしネロの返答には、姉ディーネに対する人の情がある。
(俊也、どちらにしろ説得は無理だ。斬るしかない)
(そうだな。全力でいこう!)
二人は最終的な覚悟と決意を示し合わせ、光子の刀をそれぞれ抜き、漆黒の魔剣士と向き合った。もう迷いは捨てている。