第二十五話 ここでの食事は口に合ってるかい?
父と娘たちとのふれあいの中で、見慣れない青少年である俊也がこちらを見ているのに帰ってきた父親は気づいたようだ。とは言ってもサキが日本に行く前、事前に話をしていたようで、サキとセイラの父にも俊也がなぜここに居るか大方の見当はついている。
「あんたが来てくれた救世主様だね。私はこの家の主でソウジと言う。これからよろしく頼むよ」
「はい。矢崎俊也と言います。数日前からここに住ませてもらっています。よろしくお願いします」
ソウジと俊也はお互い近づくと右手を差し出し握手を交わした。俊也はソウジに、日本にいる父と似た気さくでこだわらない印象を持ち、ソウジも彼にしっかりしたよい青少年だという好印象を持ったようだ。
「まあ庭での立ち話は挨拶くらいにして家に入ろうか。土産の菓子もある。それを食べながら話そう」
帰ってきた一家の家長の通った声でそう決まり、俊也たちは教会の中に入り、ダイニングテーブルでゆっくり色々な話をすることになった。
ソウジが行商先から持って帰った土産の菓子は、卵と砂糖をふんだんに使った洋菓子風のものだった。黄色い表面の焼き加減が程よくとても甘く美味しそうに見える。
「これはトラネスの町の名物でね。歯ざわりもよくて美味しいから遠慮なく食べてみてくれ」
「確かに美味しそうですね。どんな味だろう。いただきます」
俊也はソウジの勧め通り、トラネスの名物を食べてみた。口の中でとろけるような甘さが広がっていく。
「これは! 俺の世界でもこんな美味しい菓子はちょっとありません!」
「はははっ! そうだろう。気に入ってくれてよかった。そのぶんだとタナストラスの食事は口に合っているようだね」
ソウジは美味そうに菓子を食べている俊也に、新しくできた息子を見るような喜びの笑顔を向けている。ソウジはまず、ここでの食事が俊也の口に合っているのかどうかが気にかかっていたらしい。それを確認する意味でもトラネスの名物を振る舞ったようだ。物腰が柔らかいながら重要なポイントを抑えていく、しっかりとした父親のようだ。
「でと……私の名前以外の詳しい自己紹介をしておこうか。もう聞いているとは思うが、私は完全な行商人でね。教会は妻と娘たちに任せている。行商はこのカラムの町から比較的近いトラネスの町、ジャールの町の2つに行ってやることが多いが、たまに幾らか遠くの町まで行くこともある。そうそうはないがね」
「一年のうち半分は行商で家にいないわね……。お父さんはそういう仕事だから仕方ないけど、今より小さかった頃は寂しかった時もあったわ……」
自分に素直な明るいサキだけに、父親と離れることによる寂しさも人一倍感じるようだ。ソウジは「あの頃はすまなかったな」と面目なさそうである。だが、親子でそう思い合えるということはとてもいい関係だろうなと俊也はやり取りを見て感じていた。