第二百四十八話 法王の剣
光の軍と闇の軍は、北限の大地において北と南に分かれ、対峙している。しかし気になるのは、一際禍々しく強大な力を示している天空に浮かぶ『漆黒の玉』である。いったいあれは何であろうか?
「あの黒い玉は、カーグの写し身を竜の姿で造り出すためのものさ。闇の力が維持されるほど、つまり敵の軍勢の力があり続けるほど、写し身の力は強くなる」
「では、急ぐ必要がありますな。ネフィラス様と俊也さん達も来てくれた。開戦しましょう」
仮初の力とはいえ、冥王カーグの力が増大していけば手に負えるものではない。準備は整っている。闇との戦いを始めない理由はない。
この世界の全てを結集したような、力と力が対峙している中、サキ、セイラ、ジェシカの三人は、光の軍の中に設けられた、簡素な祭壇を近くに囲んでいる。その祭壇には聖宝具と見られる、神竜ネフィラスの刺繍が施された織物が敷かれており、その上にサキたちが使ってきた赤水晶のワンドが供物的に置かれていた。またサキたちの周りには、ネフィラス神殿で神竜に仕える、全ての修道女たちが方陣を組んで立ち並んでいる。いずれも清々しく心残りが無い顔だ。
「神竜ネフィラスの大いなる加護があらんことを……参りましょう」
ジェシカの合図と共に、神竜の巫女と聖女、全ての修道女たちは身を賭して深く祈った。
『セイントライトフィールド!!!』
膨大を遥かに超えた聖なる魔力が、祭壇にある3つのワンドを通して北限の大地に広がっていき、神聖で壮大な力場が創られた! 闇の軍は、高位の魔物で構成されているといえども、その属性と相反する清らかな結界の中で、力が半減されていく!
「ゆくぞ! 我ら正道を行かん!! 進め!!!」
杖ではない。レオン法王は剣を振りかざし、進軍の号令を発した! そしてその法王の剣からは祝福の力が生じ、全ての戦力を勇気づけるように覆っている! 光の軍は士気揚々、また各々の力も上昇した!
(違っていてもいい。俺にはおじいちゃんにしか見えない)
聖なる力場と祝福により、俊也は自身の力が増幅したのを感じ得ている。そして少し後ろを振り返り、全軍のカリスマとして剣を天にかざし、威厳を持って立つレオン法王に、剣道を教えてくれた祖父の姿を俊也は重ねた。懐かしむのは一瞬で、彼は前を向く。
「いくぞ!! みんな!!」
光子の刀を抜き、闇の軍へ誰よりも速く、俊也は超高速で斬り込んだ! 神竜の巫女と聖女たちの神聖な結界の創造、天に向けた法王の剣、光を象徴する2つの力により、ラグナロクの火蓋は切られた!