第二百四十七話 光の絆
「この魔物の数は!? それにあの黒い玉はなんだ!?」
伝書鳥が運んできた知らせを読んだ俊也たちは転移の魔法陣を使い、今、テレミラ村の近く、瘴気が吹き出し続けていた北の大地にいる。春とはいえ、北の寒風はまだ強い。瘴気が噴出していた穴を中心に、大地の氷は融けていない所が多いが、その広がる自然の風景より俊也たちを驚かせたのは、禍々しくおびただしい魔物の軍と、天空に浮かぶ漆黒の玉であった。その玉が放つ深い黒の衝撃は、魔剣士ネロと俊也と修羅が対峙した時に感じたそれとは、比べ物にならないほど強大だ。
「俊也、気づいたか? 魔物の軍にいる漆黒の剣士に」
「えっ……あれは!? ネロ!!」
レッサーデーモン、アークデーモン、ガーゴイルといった、高位の魔物で敵の軍は作られている。その中心部分で禍々しい魔物たちを束ねているのは、紛れもなく漆黒のプロテクターと剣を身に着けた、魔剣士ネロであった。彼はカラムを襲撃した時と同じく、動く時を一人、おぞましき静謐の中で待っているように見える。
「セイクリッドランドの軍も向こうに見えます。早く合流しましょう」
こんな世界の終わりとも似た光景を見ても、セイラは冷静だった。高位の魔物で構成された軍は圧倒的だが、セイクリッドランド軍は、それに対峙する形で全勢力を展開している。俊也はセイラの意見にうなずき、光の軍内にある陣へ、歩を急いだ。
「うむ、来たか。俊也さん、皆さん。出来る限りの陣容を揃えて待っておったよ」
首を長くしてレオン法王は、俊也たちを待っていた。法王は俊也に近づき、彼の右手を自身の両手でしっかりと握り込む。そして俊也と目を合わせ、意志が確かなものかどうか確認した。無論、俊也には微塵の迷いもない。セイクリッドランド軍の陣には、ノブツナ、イットウサイ、バルト、そしてエルフの魔導師ミハエルの姿も見える。
「ミハエルさん、協力してくれるんですね。ありがとうございます。このことは感謝しきれません」
「俊也君にはリズを助けてもらった大きな借りがあるからな。それに、あのウヨウヨいる魔物を何とかしないと、どの道一番最初にやられるのはテレミラだ。そんなに礼を言ってもらうことじゃない」
俊也の肩を軽く叩き、ミハエルは声を出して笑った。また、俊也と修羅にとって最上の剣師である、ノブツナとイットウサイもいる。白鷹団のバルト、それにタナストラスの主神、ネフィラスもこちらには居る。そしてこの場には居ないものの、港町ライネルのコルナード、交易商人ザイールも、屈強な傭兵や良質な装備品を揃える面で大きな協力をしてくれたらしい。
ここまでの旅で、俊也が作ってきた絆が力として結集した形だ。それが何よりも心強く、
(きっと勝てる)
そう奮い立ち、俊也は光の軍の中で勇気づけられた。