第二百四十六話 決戦までの平和
瘴気が無くなった海の航海は順調そのもので、モンスターに襲われることも全く無く、2日でライネルの港まで帰ることが出来た。トラネスではなくライネルに来たのは、そこを経由してセイクリッドランドに行くためだ。レオン法王にネフィラスを引き会わせ『七色の聖輪』を手に入れたことを話す必要がある。
法王は大聖堂内で、世界の瘴気が消えたことを感じ取っていた。青少年の姿をした神竜ネフィラスと聖輪を見たレオン法王は大いに喜び、これまで見せたことがない安堵の表情を皆に見せている。しかし、ロンテウス村と神竜の孤城における旅の経緯を俊也が話すと、その顔はたちどころに引き締まり、即座に側近へ、軍を編成し、今まで瘴気が吹き出し続けていた北の大地の、監視と警戒に向かわせるよう指示を出した。
これで、魔王……いや、冥王カーグを迎え撃つ出来る限りの準備は終わっている。俊也たちはバルトと別れ、ネフィラスを連れて時が満ちるまで、俊也、修羅、サキ、セイラの故郷カラムで待つことにした。
「懐かしい感じがするいい町だね。兄との喧嘩が済んだら、度々来るよ。気に入った」
ネフィラスは、カラムの賑やかな往来、広がる麦畑、屈託のない町人、そしてサキとセイラの生家である教会、全てをいたく気に入ってくれている。世界を平和にした後、神竜の城を出てここに住みたいとまで言っていたが、流石にそれは無理だろうと思い、俊也と修羅が柔らかく諭し、止めておいた。けっこう自由な神である。
俊也たちは、束の間の平和を得た故郷でのんびり時を待っているだけではない。ネフィラスに引き出してもらった力を最大限に近づけるため、俊也と修羅は、ネフィラス自身に決戦の時まで稽古をつけてもらうことが出来た。しかしながら、二人が光子の刀を使い全力でかかっても、ネフィラスの神竜の剣で軽く弾き返され、最初の内は話になっていない。
(本当に俺たちは、ネフィラス様の助けになるんだろうか?)
そう考えてしまうほど、二人の救世主と神竜ネフィラスの間には力の差があった。だが稽古を続けていき数ヶ月が経ち、冬が終わり春が来たある日、
「よし、そうだ。良くなったじゃないか」
神竜の剣で二人をいなしていたばかりのネフィラスが、俊也と修羅のコンビネーションによる打ち込みを、完全に受け手として防御した。その時の三者の剣気は凄まじく、タナストラスの全世界に振動の波が伝わったかと思われるほどである。
若い二人の救世主たちが、初めて稽古の手応えを感じ得たその日、セイクリッドランドから伝書鳥の知らせが来た。光と闇、決戦の時が来た!