第二百四十五話 消えた瘴気
神竜の孤城から出立した俊也たちは、今、既に白鷹団の海賊船上に居る。ネフィラスからの申し出で、ロンテウス村に立ち寄らず、転移の魔法陣を使い、直接船に戻ってきたのだ。神竜の村というだけあって、ロンテウスにネフィラスが顔を見せると、崇め奉られてしまうらしい。この青少年の姿をした気さくな神は、そういった自身への特別扱いがあまり好きではない。
「さてと、忘れないうちに『白の聖輪』を渡しておこう。でもその前に、一つやっておかなければいけないことがある」
「なんでしょう? すぐには出来ないことでしょうか?」
「いや、すぐ済むよ。俊也君と修羅君が、私の右手首周りに浮遊している聖輪に、それぞれ真紅と白銀の宝玉を持って近づけてくれたらいい。それだけさ」
聞いたジェシカが可愛らしく小首をかしげるほど、簡単な課題である。互いに顔を見合わせた後、俊也と修羅は、その儀式的な課題を行ったら何が起こるのか、ネフィラスに尋ねた。
「この世界の瘴気が無くなる。魔物たちも人々を滅多に襲わなくなるはずさ」
「えっ!? 平和が訪れるということですか?」
「一時的にね。というのは、時間稼ぎのためにやるのさ。兄カーグの封印は、冥府においてもう解けている。どの道、放っておいたらタナストラスの地にカーグは現れる。だが、君たちの力を借りて『白の聖輪』を解放すれば、瘴気の抑えは冥界まで届き、カーグの力が強大とはいえ、数ヶ月以上は時間が作られるだろう。その間に迎え撃つ準備を整える」
「なるほど。とすると、主にセイクリッドランドの協力が必要になりますね」
「そういうことだね。分かってくれたかな」
しっかり合点がいった二人の救世主は、ネフィラスを見てうなずき、返答としている。それを見て、タナストラスを統べる神はにっこりと笑った。
「よし! じゃあ始めよう。私が差し出す右手に、宝玉を近づけて」
『はい!』
ネフィラスの右手首周りに浮かぶ『白の聖輪』は、俊也と修羅が、真紅と白銀、それぞれの宝玉を近づけると、宝玉と共に目映く七色に光り、天に向かったその光は冬の暗雲をも大きく穿った! 七色の光はタナストラスの世界中に行き届き、あらゆる地域に立ち込めていた瘴気が消えていく……。
「瘴気が全く無くなった……凄い」
「まあ、こういうことさ。じゃあ、力を解放した『白の聖輪』は俊也君に預けるよ。でも『七色の聖輪』に変わっちゃったね」
穏やかながら神々しく七色の光を放つ聖輪を、俊也は受け取った。それは、聖騎士のブレスレットを付けている彼の右手首の周りで、一行を優しく守護するように浮遊している。