第二百四十二話 自慢の妻
神の城でもいつもの習慣通り、俊也は早朝に目を覚ました。そして、暖炉の消えることない炎を、飽くことなくじっと見つめ続けている。炎はよく見ると、蒼く透き通った鉱石から発せられる形で、絶え間ない明るさが生じ、燃えている。それは特別な魔力が込められた鉱石なのだろうか? 人為的に消されることがなければ、半永久的に炎を発していそうである。
今までの道のりを思うように、俊也がしばらく炎を見続けていると、冬の朝日がガラス窓から差し込み始め、サキ、修羅、セイラといった、絆が深い仲間たちも目を覚まし始めた。
「よく眠れたようだね。良いことだ」
「何も不安なく眠れました。落ち着く城ですね」
「はははっ! 気に入ってくれて嬉しいよ。今日もゆっくりしていって欲しい、と言いたいが、君たちも先を急ぐ身だ。そして私も同様に急ぎたい。君たちには私の妻に会って欲しいんだ」
「ネフィラス様の奥様に会わせてもらえるのですか?」
屈託のない笑顔をそこにいる皆に見せ、ネフィラスは俊也の肩を優しく手のひらで叩き、
「会って欲しい。自慢の妻だよ」
短く、先程見た暖炉の炎のような暖かさで答えると、紅顔の神自身が俊也たち一行を孤城の深部へ案内する。
楕円形でドーム状の広がりを持ったその空間には、水色透明な大きい天窓から冬の陽光が集められている。床には白色の石が敷かれており、それらは室内の竜節花が生育されている池を囲っていた。何とも幻想的で神秘的な空間だ。
「あら、あなた? 俊也さんたちをお連れしてくださったのですね。お待ちしておりましたわ。ネフィラスの妻、ソフィアと申します」
柔らかな薄紫色の衣をまとった慈悲深い目の麗人は、俊也たちを見つけ、会釈をしながら名前を教えてくれた。ネフィラスの伴侶であるソフィアからも、絶大で神聖な力が皆それぞれ感じ得られている。だが、力の性質としては攻撃的ではなく、彼女が持つそれは、何者にも侵されることがない守護的なものであった。
「矢崎俊也といいます。なるほど、素晴らしい奥様ですね。ネフィラス様が自慢していた通りだ」
「ふふっ、嘘がつけない俊也さんにそう褒めてもらえると嬉しいわ。今日はいい朝ね」
「はははっ! そうだな、嬉しいな。俊也君の一番いいところは、裏表がないところだ。私はそう思っているよ。ところでソフィア、私はこれから城を出なければならない」
夫の言葉を聞くまでもなく、ソフィアは全てを悟っている。少し寂しく彼女は笑うと、陽光で水面が光り輝く池に咲く、一際大きい竜節花から、掌に収まる透き通った玉を取り、ネフィラスの前に差し出した。