第二百三十六話 気さくな神
ネフィラスの大いなる暖かい力を、俊也は右手から強く感じていた。彼自身の力と共振する感覚さえ覚えている。感慨深く思うことが多すぎたため、少しの間気づかなかったが、ネフィラスの右手首には彼の優しい神聖さと同じくらい力を感じる、純白の輪が身につけられている。不思議なことにその輪は、ネフィラスの右手首を中心に浮遊した形で存在していた。
「ネフィラス様、もしかしてその白い輪は……」
「ああ、これを探しに来たんだよね。そう、これが『白の聖輪』さ。後で俊也君に預けるよ」
「俺の名前がわかるんですか?」
「君がタナストラスの竜節祭で、僕のレリーフに祈ってくれただろう? あの時からずっと見守っていたよ」
「そうだったんですか……ありがとうございます」
確かに俊也は、カラムの竜節祭以降、ずっと心の内に暖かい力を感じていた。今、その絶大で神聖な力の主である神が、優しく微笑みながら気さくに話してくれている。自分を見守り続けてくれた神竜ネフィラスの前で、俊也は思わず感涙しそうになったが、気を張り直し、涙を止めた。
「外は寒いよね。みんな城の中に入って休むといいよ。私に聞きたいこともあるんじゃないか?」
「沢山聞きたいことがあります」
「ははっ! 君は修羅君だよね? 君のこともずっと見てたよ。いいよなあ、君たちはいい友達同士で……」
「???」
「いや、こっちのことさ。ともかく入ろう。お腹も減っているんじゃないか? 食事が用意してあるよ」
随分こだわりがないフランクな主神である。ネフィラスは一貫してそんな調子なので、一行は多少呆気に取られていたが、気さくな神の案内に従い白亜の孤城内へ入っていった。
城内は機能的だが、調度品がほとんど最低限必要な物しか置かれていない。ただ、造りは非常にしっかりしており、幾星霜を深みのある白い内壁は、ネフィラスたちと共に過ごしてきたのだろうと思いを馳せられる。
「ようやくおいでなさいましたか。お待ちしておりました」
内側の門をくぐると、白髪の執事と思われる長身の老人が、俊也たちを出迎えてくれた。老翁ではあるが、背筋がきちんと張っており、かくしゃくとしている。そしてこの執事からも、旅の一行はとてつもない神聖な力を感じ取られた。
「爺、俊也君たちに食事を出してくれないか? 神竜の試練でヘトヘトだろうし、休息も取ってもらわないといけない」
「かしこまりました。用意は整っておりますよ」
人間には考えられないくらいの歳月を、この執事は過ごし、ネフィラスを支えてきたのだろう。主であるネフィラスが言葉を発する前に、従者である彼は望むことが分かっていたようにも見える。紅顔の青少年の姿をした主神にとって、この老執事は自身の一部と言えるのかもしれない。