第二百三十五話 峻厳の孤城
レッドドラゴンは首を斬り裂かれ、断末魔の咆哮を上げた! ……かと思ったが、俊也にとどめを刺されると同時に、赤龍のとてつもない巨体は霧か幻のように消えて無くなっている。
「はあ?! 今、確かに倒したよな?」
「これは……ネフィラス様が創り出した試練を乗り越えたということでしょうか。元々、あのレッドドラゴンは、実体が無いものだったと……」
神竜の巫女であるジェシカには朧気ながら、目の前で起こった人智を越えた現象に対し、感得できた所があるようだ。そして、霧消したレッドドラゴンが塞いでいた、塔の頂上部から岩山へ続く道の先に、太古から存在するのだろう、神聖な石造りの台座が柔らかな緑色の光を静かに放ち、俊也たちを待っている。
「あの光と台座は何だろうな?」
「わからない。だけど、僕たちに来いと言っている気がする」
雪よけの屋根が、その台座の上に建てられており、まるで祠のようだ。他に見える景色は、雪が深く積もった岩肌の広がりのみであった。神竜の試練は突破した。修羅の言う通り、神聖な台座とその緑光が彼らを導くのかもしれない。
それぞれの仲間と示し合わせた後、俊也はここまで苦楽を共にしてきた皆と、台座の柔らかな緑光を近くに囲んだ。するとその光は、俊也たちを優しく包むように広がり、彼らは導きの転移でその場からいなくなった。
峻厳な岩山に隠されるように建つ、小さな白亜の孤城。導きの転移を受けた俊也たちの、目の前に広がった光景はそれである。人を隔てた美しさ、また寂しさも感じられる。そしてその孤城の前には、一面に広がる色とりどりの竜節花が、白雪の銀世界に映えている。
「やあ、よく来たね。待っていたよ」
よく見ると……いや、先程は見えなかったのかもしれない。竜節花の広がりの中に、一人の銀髪の青少年が立っている。俊也たちを呼び迎えたのは、彼のようだ。防寒用の外套を身にまとったその姿は、ちょうど俊也や修羅と同い年くらいの印象だ。顔には紅顔の幼さすら残っていた。
俊也たちは銀髪の彼を見て、誰も驚くことなく全てを悟ったように近づいて行く。そして、
「あなたが神竜ネフィラス様ですね?」
「うん。随分苦労したね。本当によく来てくれたよ」
救世主である俊也の呼びかけに、タナストラスの主神であるネフィラスは暖かい右手を差し出し、深い握手で労った。ついに、俊也たちはここまで来たのだ。
運命的か運命づけられた邂逅を、孤城の庭一面に咲く竜節花は、ただ静かに見守っている。