第二百三十四話 試練の分水嶺
死の危険に瀕した彼らの窮状を救ったのは、雷速の一矢であった! バルトが放った全身全霊の切り札は、レッドドラゴンの喉元近くに突き刺さり、深いダメージを負わせている。巨大な赤龍は苦しみの雄叫びを上げ、もがくように頭と腕を動かしていた。
『ホーリーピラー!』
追い打ちをかけるように、サキとセイラが連携して魔法を唱えた! 二人の赤水晶のワンドから空間に現れた無数の聖なる光の柱は、レッドドラゴンに次々と光速で向かっていく! 一つ一つの威力は、バルトの雷弓よりかなり劣るが、それが無数となって飛び向かっている。光速で飛ぶ柱の打撃の積み重ねで、赤龍の巨躯は徐々に体力が奪われていった。
「今のうちに距離を置こう。俊也、動けるか?」
「ああ、きついがまだ何とかなる。サキたちがいる後ろへ下がろう」
この神竜の塔へ登る前、ロンテウスの村長が俊也たちに守護結界を張っていたが、結果として、それが俊也と修羅の生死の分水嶺となる。レッドドラゴンの尻尾による薙ぎ払いを受けた彼らのうち、ダメージが深いのは俊也の方であった。しかしそれでも、鈍い体を動かすことはできる。村長はこの一連のことも預言的な能力により、分かっていたのかも知れない。
「オールリフォーム!」
体を引きずりつつ、数メートル後衛の方へ俊也と修羅は近づくことができた。それを見てジェシカは緊張から安堵に表情を変え、離れた場所からとても強力な回復魔法を唱える。俊也と修羅が受けた深い打撲はそれで癒え、ほぼ全回復した。
「大丈夫ですか!?」
「これは……すごい!! はい! 大丈夫です! 俊也、これならいけるぞ!」
「ああ! 思い通りに体が動く! もう一押し行くしかない!!」
神竜の巫女が持つ絶大な癒やしの魔力に、彼らは自分の体に起こったことながら驚愕している。しかし、そこで喜ぶ暇など今はない。動きのキレを完全に取り戻した身体に『胆力の集』をそれぞれ込め、俊也と修羅は、深手にもがき苦しむレッドドラゴンへ超人の速さで再び向かった!
「グオオアアアアァァ!!!」
苦しみの中で壮絶な雄叫びを上げ、巨大な赤龍は渾身のファイアブレスを俊也と修羅に吐き出した! 相当な広範囲の高熱ブレスであったが、二人はスピードに任せ、何とか身をかわすことが出来ている。だが、炎が身体をかすめてしまい、少しの火傷を修羅は負ってしまった。
「おおおおぉぉおお!!!」
「はああああぁぁああ!!!」
修羅がレッドドラゴンの傷ついた首に加えた斬撃は、火傷で動きが八分であったため少し浅い。とどめを刺したのは、俊也の斬馬刀による渾身の一撃だ! 幅広の刃がずっしりと赤龍の首筋に入り込み、それを斬り裂いた!