第二百三十一話 ネフィラスの御加護を
広い客間に寝具を用意してもらい、俊也たちは一晩よく眠った。温かい食事も食べることができ、体の疲れがすっかり取れた俊也は、早朝の夜明けの陽による雪あかりの白を寝具の中から見ていた。今日は晴れており、窓から見える純白のロンテウス村は幻想的である。
(神竜の塔には何が待っているのか。村長さんにもわからないらしいし)
俊也は夕食時に交わした村長との会話を思い出していた。太古からの伝説によると神竜の塔に入る鍵は、真紅と白銀、2つの宝玉を持った二人の救世主ということだ。つまり俊也と修羅が、それぞれ宝玉を持って塔の門前に立てば道が開ける。なので太古から今まで、神竜の塔に入った者は一人もいない。何が待ち受けているか全くわからない。
(考えてもしょうがない。どの道、塔を登るしかない)
悩みもするが、切り替えも早いのが俊也の長所だ。まだ冬の早朝である。俊也はあれこれ考えるのを止め、純白の雪景色を眺めているうちに、また温かい寝具の中でまどろんでいった。
気の遠くなるような大昔からここにあるのだろう、重厚な深い青紫の扉の前に、今、俊也たちは居る。未知なる神竜の塔を彼らは登るのだ。
塔の扉の周囲にも、様々な色の竜節花が雪中の白に映えている。この神竜の塔が持つ加護が、それらの花を咲かせているのかもしれない。神竜の村ロンテウスが村外を歩く魔物を寄せ付けないのも、塔の加護によるものだろう。だから頑丈な防壁など必要がないのだ。
この塔に認められなければ白の聖輪は手に入らず、ネフィラスにも会えない。俊也は真紅、修羅が白銀の宝玉を持ち、青紫の大扉の前に立った。そしてそれぞれが宝玉と共に右手を上げかざすと、2つの宝玉は七色に神々しく光り輝き、重厚な大扉が音を立て徐々に開いていく。
「開いたな。やはり俺たちがタナストラスの救世主なのか」
「ああ。認められたからには神竜ネフィラスに会いに行くしかない」
二人の頼もしき救世主と、サキ、セイラ、ジェシカ、それにバルトは決死に近い覚悟を既に持っている。道は開いた。後は神竜の塔を登るだけだ。
「選ばれし者たちよ。神竜ネフィラスの御加護を」
傍で見ていたロンテウスの村長は、見送りの餞別としてネフィラスへの祈りと共に、俊也たち一行の一人一人に、守護結界を張ってくれた。塔の中にモンスターがいたとして、それらの攻撃を幾分緩めてくれそうだ。
俊也は一つ顔を自分でパチンと叩き、未知の挑戦への気合を入れ直した。そして意を決し、自分たちを招いた神竜の塔への第一歩を踏み出す。