第二百三十話 雪に映える竜節花
敷地が広く、造りも大きい村長の邸宅は、存在感を持つ不思議な塔のすぐ近くに建っていた。広いながら門構えも囲いもない家である。
「あっ! 俊也さん見て見て! 竜節花がいっぱい咲いてる!」
「本当だね。初夏に咲くものだと思っていたけど、こんな寒い冬に咲いてるとは」
色とりどりの竜節花が邸宅の敷地に咲いているのを見て、サキは少しはしゃいでいた。花の数は多く、確かに美しい。なぜ冬の今に咲いているのか分からないが、それらの竜節花は不思議な塔のすぐ隣に群生している。強い関連性があるのかもしれない。
村長は外界から来た俊也たちを見て大変驚くかと思ったが、そのようなことはなかった。彼らの来訪を悟っていたように見える。また、村長はエルフの男性であり、テレミラ村で出会ったミハエルよりも齢を重ねていて、700年生きているらしい。人間の寿命からすると、気の遠くなる歳月である。タナストラスをそのような大昔から見てきた最長老の精神は、俊也たちにはいかばかりか計りようがなかった。
「まず、ネフィラスの聖騎士殿。よくいらっしゃった」
「えっ! このブレスレットをご存知なのですか?」
俊也の問いに、村長はゆっくりうなずく。そしてそのことに関して、詳しい話をしてくれた。
「元々ネフィラス教は、このロンテウスから始まっておる。私が生まれるより前、村から外界のセイクリッドランド地方へ渡った者により世界中に伝わっていった教えじゃ。法王のことも、その右手首のブレスレットのことも知っておる」
「なるほどな。それで俺たちが来るのも大体分かっていたわけってことか」
話が飲み込めたバルトが、会話に参加してきた。村長は全てを見通しているような神秘的な目で俊也たちを見ると、またゆっくりうなずく。
「真紅と白銀の救世主よ。お主たちの望む物は、白の聖輪であろう。ならば神竜の塔を登らねばならぬ」
「僕と俊也のことだな……。何で分かるのかいちいち驚いててもしょうがないか。塔を登れば白の聖輪が手に入るのですね?」
「そうじゃ。そしてお主たちは、神竜ネフィラスに会うであろう」
タナストラスの主神、ネフィラスそのものに会える。そう断言されたことに俊也たちは驚き、しばらくざわついていた。ロンテウスの村長であるこのエルフの老翁は、特に自分の力を説明しないが、どうやら預言者として絶大な力を持っているように感じられる。
邸宅の客間から窓を見ると、降り止んでいた雪がまたしんしんと落ちてきていた。その汚れない白は、色とりどりの竜節花の存在を、さらに美しく際立たせている。