第二十三話 女難はあるが異世界は悪くない
モンスター討伐を終えた俊也たちはカラムの町に無事帰還した。討伐の仕事自体は短時間で終わっているので、町のギルドへ戻ってこれたのは正午を少し回ったくらいの頃である。
「おう! 戻ったか! ご苦労さん。その顔だといい仕事をしてくれたみてえだな」
ギルドの親父は討伐隊一行を建物入り口から出て迎えてくれている。テッサイや俊也の顔を見回し、首尾が上々なのを感じ取った親父は上機嫌だ。
「3、40は斬ったぜ。食用のアカオオジシも相当数狩った。肉が傷まない内にギルドから人を出してくれ」
「おお! それはかなり狩ったな! ご苦労さん。すぐに人数を出そう。まあ、ギルドでちょっと休んでくれ」
仕事に慣れているテッサイの報告を聞いた後、ギルドの親父は北西の森へ確認とアカオオジシの肉を運ぶ人数を手配した。俊也たち一行には仕事で疲労した体を休められるように、ギルドの休憩室へ案内している。
「みんな怪我はなかったようだが、かなり返り血で汚れてるな。着替えを用意しているから着て帰りな」
ギルドでモンスター討伐の仕事を受け完了の報告をすると、アフターケアとして風呂、着替え、食事を一食、そして休憩室での休息がついてくるようだ。親父は俊也たちを下にも置かない様子だ。
「へえ~、仕事をこなしたらここまでサービスが良くなるんですか。これはいいですね」
「わっはっは! そりゃ誰でもできる仕事じゃねえからな。町の安全もかかってるしなおさらだ」
豪快に笑うギルドの親父を見て、俊也も笑いを返している。
(思ったより異世界も悪くないけど、こういう仕事をこなしていたら危険も多いだろう。たまたま怪我がなかっただけだし気は引き締めておこう)
タナストラスでの生活を気に入ってきた俊也だったが、同時にその中で自分を見失わないように心づもりをしっかり持っていた。
俊也はギルドで昼食になる食事を、テッサイを始めとする討伐隊や食えないが面白いギルドの連中と楽しく友好を交わしながら食べた後、少し休息を取りサキの教会に帰っていった。時刻は昼下がりを少し過ぎたくらいだ。
「おかえりなさい! よかった……どこも怪我してませんね?」
「おかえりなさい。ご無事でしたね……よかった……」
異世界でのわが家とも言える教会の住居部分に俊也が戻ると、サキとセイラの美人姉妹がとても心配した様子で待っていた。彼はなかなか罪な男かもしれない。
「ただいま。大丈夫だよ。怪我はしてない。仕事もうまくいったさ」
俊也も彼女たちの顔を見てホッとしたようだ。部屋で気を緩めたところで、身につけていた鋼鉄のプロテクターを自分で外そうとしたが、
「私がお手伝いしましょう」
「えっ!? ちょっと姉さん!?」
タイミングを見ていたようにセイラが俊也に近寄り、また彼の体を触りながらプロテクターを外している。そばにいるサキはそれを見て気が気でない。
「よくお帰り下さいましたね」
そして俊也を見つめていたかと思うと、なんと、彼と口づけを交わしてしまった! あまりに突然のことに俊也は呆然としている。
「あああーーーっっ!! 何やってんのよ!!!」
「あら、ごめんなさい。つい、いつの間にか」
涙を浮かべてサキはどこかへ走って行ってしまった。俊也は言葉の掛けようがない。
(異世界は悪くないが苦労しそうだ……)
またしてもの女難に考え込んでしまいそうになる俊也は、教会の台座にある十字架に祈りたいような気分だった。その心境とは対照的に、窓から見える花菖蒲に似た花は静かに少し傾きかけた陽を受けている。