第二百二十九話 神竜の村ロンテウス
冬の銀世界が続く大きな島の平地を歩き、ほとんど外界の者が誰も辿り着いたことがない村を探すのは、大変な不安と苦労があった。それでも、古書物にあった地図の写しから方角を割り出し、雪道に足を取られないように少しずつ進んでいった結果、ついに炊煙立ち上る、村の民家群を見つける。簡素な柵を用いて外と村を分ける仕切りとしているだけで、モンスターを防ぐ頑丈な防壁などは村に存在していなかった。俊也たちは雪中を歩く途中、何度か強いモンスターを撃退している。それにもかかわらず防備が薄いのはどういうことだろう。
「静かだけど大きな村だな」
「そうだな。規模を考えると町と言ってもよさそうだ」
俊也と修羅は、村の民家の数と広さをおおよそ目で測り、それぞれの感想が一致していた。備えが薄いながら一応その村には門があり、門番が一人いる。俊也たち一行が近づくと、流石に間延びした顔をした門番は驚いたようだ。外界から来訪者が来るなど、露にも思っていなかっただろう。
「たまげたなあ。お前さんたち海を渡って来たのか?」
「そうですよ。この島のこの村を目指して来ました」
「そうかあ。いやー、おいらが門番やってるうちに外から人がやってくるとは思わなかったなあ」
村を見つけ一番喜んでいたサキが、先頭に立って人の良さそうな門番と話をした。門番の大男はとても友好的で、その男が知る限りの村に関することを話してくれている。村の名前はロンテウス。レオン法王の古書物にあった通り、神竜ネフィラスゆかりの村で間違いないようだ。そして、村内にはそびえ立つ塔がある。およそ人が作ったと考えられない形をした塔であるが、ロンテウス村が背にしている岩山に塔の頂き部分が繋がっていた。そこから先はどうなっているかよく分からない。
「とにかく入ってくれ。神竜の村ロンテウスへようこそ。詳しい話は村長さんに聞くといいよ」
快く門番は一行をロンテウスに通してくれた。村内は広く雪の銀世界に覆われている。そのなかで多く立ち並ぶ民家から出る炊煙が、俊也たち一行に安心感を与えた。
(行き倒れにならず休めそうね。よかった)
ほとんど賭けと言える未踏の地の旅だっただけに、セイラはそこまで考えていた。それだけ覚悟を決めていたということだ。
村長にも会わなければいけないし、雪に冷えた体を温めなければどうにもならない。俊也たち一行は、門番が簡略に案内してくれた村長の邸宅まで歩き、宿代わりとして頼むことにした。