第二百二十八話 前人未到
俊也たちは、今、海上の人になっている。白鷹団の船で出航する時、カラムの町の守りを空けるのが、非常に気にかかってはいた。だが黒海を渡り、白の聖輪を探し出すことができるのは、彼らだけだ。魔剣士ネロが再びカラムを襲撃しないよう願いつつ、耐波性が高い頑丈な海賊船で、まず白海を航行している。
荒波と強力な怪物が待つ黒海へ行くには、東の大陸の中部にあるセントホーク海峡を通らなければならない。その海峡が存在する部分は大陸がとても細くなっていて、つながっていない所がある。つまり東の大陸はセントホーク海峡を隔て、北と南で分かれているのだ。
白鷹団の海賊船の最大船速は高かった。俊也たちはトラネスを出てセントホーク海峡まで5日間で辿り着き、今度は黒海の激しい波しぶきに船の頑丈な装甲で立ち向かっている。
「さあここからだが、おいでなすったな」
「でかい相手だけど、斬るしかないですね」
「なーに、逃げれないこともねえぞ。やっつけながらになるがな」
やはりほとんど前人未到の黒海である。白海でも以前出会ったシーグリフォンや巨大なサメの化物、小型のサーペントなど、防備が薄い商船なら一撃で沈められる強さを持つモンスターが、ひっきりなしに荒波と共に襲いかかってくる! 手の抜ける相手など一つもなかったが、バルトの蒼弓、俊也と修羅の『胆力の集』を用いた刀の斬撃、海賊船の大砲による援護射撃により、あるいは撃退し、あるいは逃げ切った。
そうした激闘が続く中、黒海を4日航行した。そしてついに、レオン法王の古書物にある伝説の大島に、彼らは接舷する。
「これは……尖った岩山だらけの島だな」
「そうですね、でも神秘的ですね。何かネフィラス様が近くにいらっしゃるような感じがします」
船を着けた岸壁からは、雪が降り積もった銀世界の平地が続いている。その平地は広がっているものの、どの方向を遠く見ても、峻厳な岩山に突き当たっていた。何かを隠すような、守るような岩の連山だが、その地形より、サキが今言った言葉が俊也にはとても気になっている。
「サキ。今、ネフィラス様がいるようなって言ったよな?」
「はい。暖かい力をしっかりと感じます。姉さんやジェシカさんは?」
「私もよ。とても大きく暖かい力……」
「感じます。恐らくこの島のどこかにネフィラス様はいらっしゃいます」
非常に高い魔力を持つネフィラス教の修道女、サキとセイラ、それに神竜の巫女ジェシカ、三人ともに同じことを感じている。そしてタナストラスの救世主である俊也と修羅、彼らも心の芯に、ほの暖かく心強い何かを感じ取っていた。