第二百二十六話 最重要宝具
雪化粧の大聖堂は、いつにも増して美しく荘厳に見えた。謁見室では俊也たちが到着した報を聞いたレオン法王が、既に首を長くして待っている。そして、何やら貴重で古めかしい書物が机の上に広げられていた。
「うむ、来てくれたか。早速じゃが本題を話そう。白の聖輪を探してほしい」
公務で忙しいのはレオン法王の常だ。しかしながら、今日はさらに急いでいるように見える。魔剣士ネロによるカラムの襲撃事件を、法王は知っているはずだ。甚大な被害を受けた件があったからこそ、急ぐ思いがあるのかもしれない。
「白の聖輪? とても重要そうな響きがあるけど、どういった物なんですか?」
「それを話さねばならぬな。俊也さんが言う通り、最重要と考えられる宝具じゃ。それがあれば、遥か北の大地から湧き出続けておる黒き瘴気を収めることができるやもしれぬ」
「えっ……じゃあ、タナストラスの不穏な空気もそれで……?」
「晴れるやもしれぬ」
サキの尋ねに、レオン法王はスパッと答えた。俊也から瘴気の源泉を中心として写した写真を受け取った後、法王はそれをわずかな手がかりとし、そこから大きな手がかりが得られないかと、ずっと考えていたようだ。そしてそれが結実した形が、机の古書物の見開きに図として載っている、白の聖輪という最重要アイテムなのだ。
「これが白の聖輪なのじゃが、図の横にある地図を見てほしい。これによると聖輪は黒海の大きな島にあるようじゃ。そして、その島には神竜ネフィラスに関係が深い者たちが代々住んでおると書かれてある」
「黒海の島なのですか。それは辿り着くのがかなり難しいのでは」
「難しいのは間違いないな。じゃが、白鷹団のバルトの船なら行けるじゃろう。というよりバルトに頼むしかないじゃろうな」
頑丈な装甲と装備を備えた白鷹団の海賊船を、俊也とセイラは思い出していた。確かにあの船しか、波高く危険な黒海を渡りきれないだろう。
「分かりました。俺からバルトさんに頼んでみます。ようやく掴めた解決策の手がかりですしね。これでタナストラスが救えるなら行きましょう」
「ありがとう、俊也さん。困難な船旅じゃが、頼んだよ」
両手で俊也の手をしっかり握り、レオン法王は俊也たちを送り出した。雪景色の聖都の清らかな美しさが、危険な船旅に臨む彼らの決意した心に、しっかりと刻み込まれる。
セイクリッドランドの銀行統合型ギルドで聞いてみたところ、バルトは折よくライネルの港町に船をつけていたようで、酒場でギルド長コルナードと飲んでいた。俊也が事情を話すと快諾してくれたが、危険な黒海を渡るだけに準備が必要になるらしい。どの道、俊也はノブツナの修行を修羅が終えるのを待つ必要がある。彼らはカラムの町に転移の魔法陣で戻り、全ての準備が整うのを待つことにした。