第二百二十五話 年が明けて
「新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくおねがいします」
「こちらこそよろしくおねがいします。って、俊也さん、なんですかそれ?」
「俺の故郷の日本では、年が明けるとこうやって挨拶して祝うんだよ」
雪が静かに積もり、カラムの町は一面の銀世界である。年が変わったのはそうした日だった。俊也の挨拶を不思議そうにサキが聞いているのは、タナストラスに新年において特別なことをする風習がないからだ。この世界は年末年始に行事が少ないため、面倒さがなくて良いかもしれない。
「世界が違うから、風習も全然違うのですね。興味深いです」
「俺は年越しも年明けもタナストラスの人が普通に過ごしてるのを見て、びっくりしましたよ」
教会も、年末年始にかかわらず全く通常営業であった。セイラは普通の一年の中の一日として、家や教会の仕事に勤しんでいた中、俊也が新年の挨拶をしてきたので、怪訝な顔すら見せてそう返している。自分だけカルチャーショックを受けた外国人になったような気がして、俊也は非常に場違いというか妙な感じを覚えた。
魔剣士ネロの襲撃から、そんな風に落ち着きを取り戻したカラムの通りに、新雪を踏みながら教会へやってくる一人のごつい男がいる。
雪にまみれた外套をふるい、教会に入ってきたのはテッサイであった。ここまで来るのに随分骨が折れたらしく、
「いや~、真冬は雪が深くていけねえや。やっと着いたぜ」
冷えた体を震わせて、俊也たちがあたっている暖炉で手を暖め始めた。この教会の礼拝堂には暖炉が設けてある。
「テッサイさん、こちらに来られるのは珍しいですね。怪我はもう大丈夫ですか?」
「ああ、セイラちゃんのおかげでこの通りピンピンしてるよ。にしても、あれだけのモンスターがカラムを襲うとはなあ……」
傭兵長であるテッサイも、魔剣士ネロの襲撃時にモンスターからカラムを守り、あちこちに手傷を負った。病院の厄介になっていたわけだが、セイラのキュアヒールで治療してもらい、今はどうということはない。
「ところで、ゆっくり暖炉にあたりに来たわけじゃねえんだ。俊也、伝書鳥でセイクリッドランドから報せが来てるぞ」
「伝書鳥で、ですか? 急ぎの用だろうな」
伝書鳥は町の役所に通常止まる。テッサイは町長トクベエから使いを頼まれて教会へ来たのだろう。俊也は、報せが書かれた小さな手紙を彼から受け取ると一読し、
「これは……すぐ話を聞きに行かないと!」
内容を理解すると即決した。そして、サキとセイラを連れて転移の魔法陣を使い、レオン法王が待つ大聖堂へ向かう。