第二百二十話 ブチギレた!
魔法の詠唱を終えると、ディーネは、
「ボルカノン!!」
と、彼女に似つかわしくない大声を発し、エネルギー密度の濃い豪炎の大塊を、高速で魔剣士の背中目掛けて撃ち込んだ! 俊也と修羅はギリギリまで魔剣士の気を引いた後、ボルカノンの魔法に巻き込まれないよう、身をバックステップで素早く引き、距離を取っている。
「…………!!??」
豪炎が迫ってきていることに、気づいた時はもう遅かった。既の所で防御の態勢だけは取れている。だが、ディーネが最大限の魔力を使い、放ったボルカノンの威力は、魔剣士を持ってしても受けきれず、体が吹き飛ばされた。その拍子に、この男がつけていた仮面が外れ、宙に舞い、そしてそれは地に落ちている。
「あなたは!? ネロ!?」
ディーネは魔剣士の素顔を見て驚愕し、彼をネロと呼んだ。ネロと呼ばれた魔剣士の素顔は年若く端正で、顔立ちがディーネに似ている。
「チッ!」
自分を見て茫然としているディーネの呼びかけにネロは答えることなく、ダメージを負った身体を起こすと、指先から漆黒の光弾を一つ、ディーネに向けて撃ち放った。惑っている彼女はそれを避けられない。
「ネロ……どうして……?」
身体に漆黒の光弾を受けたディーネは、そのまま倒れ動かなくなった。
「ディーネさん!!? クソぉおお!!!」
修羅は激しい怒りに奮え、自分の今のポテンシャルを越えた力で、魔剣士ネロに斬りかかる! しかし、それより遥かに速いスピードで、既に俊也がありったけの力による斬撃を打ち込んでいた!
(…………)
無言で髪を総毛立たせ、俊也はタガが外れた戦闘マシーンになっている。完全にキレたようだ。魔剣士ネロの急所を全力で斬り、殺すことしか今の彼の頭にはない。
「俊也?」
(…………)
「いいぞ! そうでないと甲斐がない!」
限界のタガが外れた俊也の斬撃に、魔剣士ネロは防戦一方になったが、その状況すらこの男は楽しんでいる。そして、ブチギレた俊也が座った目で放った渾身の一撃をかろうじてネロが受けた時、俊也の刀のタガも外れ、変化が起こった!
(…………)
「なんだと!?」
俊也の膂力に合わせるかのように、刀は幅広く長い刃を持つものに変わった! その刃には十分な力を加えて振れば、鋼であろうがなんであろうが全て斬ってしまう鋭さが見える。ネロが漆黒の剣で何とか受けた斬撃はまさにその真骨頂であり、斬撃を受けきれず、『胆力の集』による膂力の刀は、魔剣士のプロテクターをも斬り割り、やや深手をネロの右肩に負わせた!