第二百十九話 一か八かの作戦
万事休す、そう思われた中、光明となる聖なる力場を戦場に作り出したのは、サキ、セイラ、それにジェシカであった。三人の聖女が膨大な魔力を合わせ、必死な祈りと共に力場を保っている。その力場は、魔剣士の力を大きく削ぐと同時に、俊也たちに聖属性の力を新たに与えた。俊也と修羅の刀が神々しく光を帯びている。
「すごい魔力……サキちゃんたちが頑張ってくれてるけど、長い時間、この力場は持つものじゃないわ。俊也君、修羅君、私がテレポートであいつの後ろに回った後、私が使える最大限の火の魔法を撃ち込むわ。少しでいい、あいつの気を逸してちょうだい」
「わかりました!」
「何とかしてみます!」
俊也たちの力が通じるのは、聖の力場が利いている今しかない。俊也と修羅は、黒の魔剣士との距離をこちらから詰め、そして左右の両脇から刀を正眼に構え、禍々しいオーラが薄れている魔剣士の隙を窺っている。
(隙がない……全くない)
(とんでもない技量だ……今の状態でもこちらが不利だ)
強者と強者は対峙した時に、すぐ相手と己の力の差がありかなしか分かるものだ。聖の力場の中で、黒き魔の力をこの男は大きく失っているのは確かである。そこで初めて漆黒の剣を抜き、魔剣士は構えたが、俊也と修羅にはどうしてもそれに隙を見出すことができない。
「どうした? かかってこい」
(…………!!)
静かに構えたまま、魔剣士は挑発をした。それに乗るつもりは二人にはない。だが、聖の力場が男の力を奪っている時間に限界がある。動くより他になく、俊也と修羅は一か八かで斬りかかった!
「おおおぉおお!!」
「さっ!!」
俊也は『胆力の集』を使い、常人を大きく越えた力で魔剣士の頸部を、修羅は正確無比な連撃で胴部から胸部に斬撃を見舞った! しかし、それらをいなすように漆黒の剣を操り、魔剣士はこともなく二人の渾身を受け切っている。
「それで終わりか? 今しかないぞ?」
余裕の笑みすら浮かべながら、黒の魔剣士は俊也たちを馬鹿にするかのような言葉を短くかけた。それに憤慨しようがどうしようが、俊也と修羅に今しなければならないのは、魔剣士の注意を完全にこちらへ向けることだ。
「はああぁぁああ!!」
「やっ!!」
二人は力を振り絞り、黒の魔剣士に再び斬りかかる! どこを狙って斬撃を打ち込んでも結果は先ほどと同じであった。だがそれは、無駄ではない。魔剣士の注意は俊也と修羅に今ほとんど向けられており、その背後には大きな隙が生じていた。俊也たちには、魔剣士の背後に回ったディーネの姿が見えている。