第二百十八話 一筋の光明
魔物の群れを業炎により一掃したのを見計らって、ディーネはテレポートの魔法を使い、俊也たちがいる場所に瞬間移動した。彼女はこの魔法でカラムで戦える誰よりも先回りし、魔剣士の様子をじっと窺っていたのだろう。
「来てくれたのね、俊也君、修羅君。でもね、あれを見てごらんなさい」
ディーネは魔剣士を指差している。黒く禍々しいオーラが非常に強い魔力を持っており、ディーネが唱えたファイアストームは、魔剣士に軽い火傷すら負わせていない。全て黒のオーラにより打ち消されている。
「これは、俺たち三人がかりで歯が立つかどうか……」
「出来るのは足止めくらいかもしれないな」
今まで戦ってきたどのモンスターとも異なる、圧倒的な威圧感を持つ魔人の強さを、ピリピリと肌で二人の救世主は感じている。修羅は「足止めくらいにはなる」と、戦力差を見ていたが、ディーネは頭を振り、
「三人がかりでも殺されるだけよ。足止めにもならないわ」
さらに絶望的な評価を、冷静な目で下した。そしてそれは正鵠を射ているだろう。
「お前たちがタナストラスの救世主というやつだな。嗅ぎつけたぞ」
「……どうしてそれを知っている!?」
魔剣士は俊也の問いに答えず、剣を抜かず構えないままゆっくりとこちらへ近づいて来る。とてつもない脅威の接近に焦りながら、俊也と修羅はそれぞれの刀を抜き、正眼に構えた。嫌な冷や汗がじっとりと二人の額に滲む。
「カラムから、お前たちのことは噂になっている。そして真紅と白銀、2つの宝玉をお前たちは持っているはずだ。それだけ言えば十分だろう」
「…………!?」
長くはない答えだったが、この魔剣士に何もかも見通されている怖れを俊也たちは抱いた。そしてゆっくりと近づき続ける、黒く禍々しい脅威の目的は分かっている。俊也と修羅の命を奪うことだ。
「もう一つ答えろ! お前は何者だ!」
「魔王カーグ様に仕える魔剣士とだけ言っておこう。理解出来たか?」
少しでも時間稼ぎをするために修羅が言い放った問いへの答えは、魔剣士と対峙する三人に、さらなる絶望を塗り込んだ。玉砕覚悟でぶつかるしか無い、そう俊也と修羅は考え、顔で示し合わせる。しかし、そこで覚悟を決めた二人に、一筋の光明が差し込んできた。
『セイントライトフィールド!』
清らかな聖女たちが唱えた魔法により、聖なる力場が彼女たちを中心として、広大な同心円状に広がる! その力場は、湧き出ていたモンスターを全て消し去り、魔剣士が纏う黒きオーラをも中和した!