第二百十六話 師弟三人
俊也はこういう時でも人を気遣うことができる。カラムに戻りそわそわとした様子で気が気でないサキとセイラが、一番気にしていることは分かっていた。
「サキ、セイラさん。まず教会に行ってソウジさんとマリアさんに会って下さい。俺はその辺りの傭兵に聞いて、モンスターがいる処で戦ってきます」
「ありがとうございます、分かりました。父と母の無事を確認した後、私達もすぐ後を追います。俊也さん、十分お気をつけて」
「ありがとう。気をつけてね、俊也さん。後ですぐ手伝いに行くから」
ネフィラス神殿で修行を積み、サキとセイラの魔力は格段に上がっている。サキの「手伝い」という言葉からすると、戦いにおいても俊也の助けになる魔法を習得できているのだろう。それはともかく、加羅藤姉妹は気がかりの実家である教会へ急ぐため、俊也と一旦別れ、出来る限りの速さで走っていった。
カラムの少し北で、十体程のモンスターに一人の壮年の達人が囲まれている。明鏡止水の正眼の剣で、殺意が剥き出しの怪物達が隙間なく周囲にいても、その構えは一糸も乱れてはいなかった。
「ガアァァアア!!!」
がむしゃらな雄叫びを上げモンスターの一体が達人に襲いかかってきたのを皮切りに、残り全ての怪物達も一斉に攻めかかる! しかし達人は、水が川を流れるように自然流麗な動きで持つ剣を操り、一瞬の間に周囲のモンスターを斬っている!
「百来ようが二百来ようが大したことはないが、キリがないな」
その達人は俊也と修羅の剣師、イットウサイであった。そして、修羅もその近くでモンスターに応戦しており、彼もここまでで数十体を斬っている。モンスターが湧く数は、イットウサイが言うようにキリがない。その状況で剣の師弟であるこの二人の奮闘が大きく、水際でカラムへの侵入を防げていた。
「先生、モンスターが湧いている処はあそこでしょうけど、今の戦力では近づけませんね」
「ああ。カラムの傭兵は負傷して戦えなくなっている者が多い。援軍がないと私達だけでは防戦にしか回れない」
「はい……セイクリッドランドへは報せがもう届いているはずですが、俊也が戻ってくれれば……」
彼らが待ち望むのは俊也である。そして彼は、目と鼻の先まで来ていた。
「あれは!? イットウサイ先生と修羅だ! おーい!」
「俊也!? 来てくれたか!」
「やれやれ、ようやく来てくれたか。待っていたよ」
三人の強者は再会し、身体の上方で腕を合わせた。平穏なカラムを襲ってきた者への反撃は、ここからになる。