第二百十三話 飛炎鳥
傍に置いていた魔法のリュックから、俊也は聖浄のトーチを取り出し、灯火をつけた。そして、その浄化の光を、こちらに敵意を向けたままのサイクロプスにかざす。
「グオオオ!?」
聖なる光を体に受け、巨躯の青鬼はその身を怖れに震わせていた。だがそれも一時のことで、サイクロプスの顔は憑き物が取れたように穏やかなものに変わっている。今なら俊也が伝えたいことを分かってくれるかもしれない。
もう一度、極彩色の雛がいる上方の巣をサイクロプスに指し示し、俊也は身振り手振りを交え、
「あれを守っていたのか?」
と、尋ねた。穏やかになった青鬼は、彼の言っていることが理解できたようで、大きな頭を縦に振りうなずいている。コミュニケーションがとれたことで俊也の緊張も幾分なくなり、顔を緩ませることができた。
「そうか、そういうわけか。悪かったな。傷の手当をしてやろう」
俊也は魔法のリュックから傷薬とポーションを取り出し、またジェスチャーを使って、「これは薬だ」と、丁寧にサイクロプスに伝えている。少しサイクロプスには戸惑いがあったが、俊也からポーションを受け取るとそれを飲み、俊也から以前の戦闘と今日受けた傷の治療を素直に受けた。大きな青鬼の傷の痛みは、それにより随分治っている。
「よし、もういいぞ」
「グガ……」
サイクロプスの手当をした後、俊也はその青い体を軽く親愛を込めて叩き、背を見せてノブツナのところへ戻った。サイクロプスは彼に襲いかかることなく、静かに後ろ姿を見送る。
「ノブツナ先生の言葉の真意はまだ分かっていませんが。俺はサイクロプスを斬れませんでした」
「それでいいんじゃ。合格じゃ。後で目録をやろう」
「えっ! 目録をですか! やった! ありがとうございます!」
ノブツナに何を言われてもよい、そういう心づもりで青鬼を斬らず帰ってきたのだが、これで良かったらしい。ノブツナは今日の試練のことはそれ以外言わなかったが、俊也がもしサイクロプスを斬っていたら、決して良い顔をしていなかっただろう。
「ところでノブツナ先生。あの鮮やかな羽を持つ鳥は何かご存知ですか? サイクロプスはあれを守っていたようなのですが」
「あれはな、飛炎鳥と言ってな。山の森を守る鳥と昔から伝えられておる」
俊也がそう説明を受け始めた時、ちょうど飛炎鳥の親鳥が巣に舞い戻ってきた。親鳥も雛と同じく極彩色の羽毛を持っており、その大きさは俊也の背丈より大きい。腹を空かせた雛に、愛しみを込めて取ってきた餌をあげている。