第二百十二話 青鬼との再戦・その2
大岩に腰掛け、辺りにいる野鳥の声を聞きつつ、サイクロプスはまどろんでいたようだ。その表情は、俊也と戦った時に比べとても穏やかで、今日だけを見れば山の森にいる巨大な精霊の一種かとも思われた。
(いや、恐らくこいつは精霊のようなものだろう。だが、なぜそれが、俺にあそこまでの敵意を向けたのか?)
刀を巨大な青鬼に向けながら、俊也はそう考えている。そして、眼の前にある脅威を察知したサイクロプスは大岩から素早く立ち上がり、適度な距離を取って俊也と対峙した。前の戦いでは文字通り身体の力が足りず、この青鬼に打ちのめされたが、ノブツナの修行をこなし、見極めをもらった今の俊也なら、眼前の巨躯を斬るのに造作ない。しかし、彼が構えた刀には殺気が宿っていなかった。
「グ、グオォォオオ!」
「…………」
敵意を見せながらも恐慌にかられた声で、サイクロプスは威嚇している。殺気がない刀を、先程から俊也は構えているだけだ。モンスターながら巨大な青鬼は、それだけで彼との力の差が分かっており、体をすくませるように身構えていた。
魔法力を全身に行き渡らせ『胆力の集』を使い、俊也はサイクロプスとの間合いを瞬時に詰め、刀で青く厚いその胸板の薄皮を斬る!
「オオォォォ!?」
十分に手加減した探りの攻撃を受け、巨大な青鬼はますます混乱状態になった。その中でも死に物狂いで、拳を俊也に当てようとする! 実力差が完全に見て取れる戦いというのは、おおよそにおいて番狂わせがない。闇雲に振り下ろしたサイクロプスの拳は、完全に見切られ空を切り、地面を大きく叩いただけだ。
俊也は再び刀を向け、サイクロプスの様子を見た。巨大な青鬼はひどい恐慌にかられながらも逃げない。
(なぜ逃げないんだ?)
逃げない理由がある。そう踏んだ俊也は、サイクロプスの周囲にある木々、岩などを俯瞰するように確かめた。そして広葉樹の木々の上方に、極彩色の羽を持つ、鳥の雛がいることに気付く。
「…………」
「オオ?」
刀を収め、俊也は2歩静かにサイクロプスの方へ近づき、極彩色の雛がいる上を指した。相手が武器と敵意を全く収めたのに、サイクロプスは一つの目で驚いている。だが拳を向け続け、警戒を解くことはない。
(間違いない。あの雛を守っているんだ)
敵意を向ける理由がよくわかったのでサイクロプスを斬る気は、俊也の中で霧消した。一つ残された問題は、拳を向けたままの巨大な青鬼の警戒を解くことだが、彼の頭中で、あるアイデアが既にまとまっている。