第二百十一話 青鬼との再戦・その1
「俊也、お主の身体の強さはかなりマシになった。そして強さを崩さぬまま、無駄のない打ち込みができておる。今はこのくらいでよいじゃろう」
「そうですか……俺はまだまだノブツナ先生に稽古をつけてもらいたいのですが」
修行の見極めを出してもらったにもかかわらず、俊也は心底残念そうである。それほど、この剣神に傾倒していたのだ。ノブツナは愛弟子のその様子が可愛くて仕方がなかったが、こうも諭している。
「もうすぐ剣神山に冬が来る。山の冬は厳しいぞ。下山も容易ではなくなろう。それに、お主一人ならまだよいが、サクラを連れておることを考えねばな」
「そうか、そうでした。浅はかでした。俺は俺のことしか考えていなかった」
「いや、よい。若いというのはそういうことじゃ。周りに気づかなくなるのも若さじゃが、自分を高めるのに夢中になれるのも若さじゃ。それでよい」
自身の様々な面の未熟さが、俊也には歯がゆかったが、師の言葉に彼は精神的に救われた。若さとは素晴らしい勢いとも置き換えられるだろう。
「ありがとうございます。では明日、俺はサクラさんを連れて下山する段取りになりますか?」
「ふむ……。その前に一日だけ試練をこなしてもらおうか。どこで何をするかは明日言おう。今日は洞穴で休養を取り、備えておれ」
「試練……分かりました。ありがとうございます」
深くノブツナに聞くこともせず、俊也は丁寧に師へ礼を示した。稽古は昼になったばかりの早い時間に終わったことになる。師と弟子の二人は洞穴に戻り、その日はサクラと一緒に静かに過ごし、俊也は明日に備えた。
翌朝、ノブツナが俊也を連れ出した処は、洞穴からやや奥まった広葉樹の山林である。秋が深いため、紅葉している木々もあり、それらを見て風情を感じることができる。しかし、ノブツナから課せられる試練は難しいものになるだろう。俊也はその心づもりで来ており、緊張感を持った顔で気を張っていた。
「着いたな。俊也、見てみよ」
「はい。あっ!? あれは!」
深まった山林のある地点まで来た二人の視線の先には、俊也が負けを喫したあの青鬼、サイクロプスが大岩を椅子にして座っている。
「どうじゃ、怖いか?」
「いえ。しかし、サイクロプスがいるということは、課される試練は……」
「うむ。今一度、あの青鬼と立ち合ってみよ。そうじゃな、一つ言っておいてやろう。あやつをどうするかはお主次第じゃよ」
剣師ノブツナの意味深な言葉を聞き、俊也はしばらく考えていたが、意を決するとサイクロプスの前にゆっくりと歩み出て、自身が持つ刀を抜いた。