第二百八話 ノブツナの手ほどき・その2
大山に人が剣を打ち込んだとしてどうなるだろうか? どうにもならない。精々、剣が山の土にめり込むか、岩に当たったとしたら刃が折れるだけだ。俊也のノブツナへの打ち込みも、そのようなものであった。どんぐり眼の剣神は、一歩も動かず俊也の竹剣を受け止め、何事もなかったように弾き返している。
「ぐっ……」
俊也は自分の攻撃による力をそのまま自身に跳ね返された形になった。数メートル体を飛ばされ、受け身も満足に取れず地に落ちている。それでもノブツナは、かなり手加減をして彼を扱ったようだ。
「脚には『胆力の集』を使ったようじゃが、それではどうにもならん。腕にも、そして全身に行き渡らせよ」
「ノブツナ先生、『胆力の集』とは? 教えて下さい」
「お主が黒石と高山瓜で積んだ修行がそうじゃ。魔法力を体の部分に集中し、力に換えたな? 一言で言えばそのことじゃ」
この小柄なホビットの師は、俊也に稽古をつけながらも変わらず平穏な目をしている。しかし俊也の方は、
(いったいこの稽古をこなせるのだろうか?)
そういった自分の未熟さに対する焦りと、雲の上のそのまた上の強さを持つ師に、剣を打ち込むことへの怖れすら窺える。もがいている中で、ノブツナから少しでもヒントを貰おうと、俊也は必死だった。彼において相当珍しいことだ。
「部分部分に集中させていた魔法力を、全身に行き渡らせて力に変えると……」
「そうじゃ。俊也、お主が剣神山を登っておる時、青鬼と戦っておったのを見たが、イットウサイによく教わったのじゃろう。基本の動きは良い。じゃが、強さが足りん。わしが『胆力の集』を教えたのはそのためじゃ」
この剣神が言っている青鬼とは、俊也をしたたかに打ったサイクロプスのことだ。そこまで伝えると、力が程よく抜けている手で竹剣を構えるでもなく下げ、ノブツナはまた、俊也が立ち向かってくるのを待っている。
「黒石と高山瓜でお主は掴みかけておる。力を全身にみなぎらせてみよ。それが『胆力の集』の極意じゃ。わしがここまで教えてやることは普通ありえんぞ」
「ありがとうございます! わかりました! やり遂げてみせます!」
俊也の人間性を余程ノブツナは気に入ったのだろう。この師から見れば俊也の剣は未熟である。それをここまで丁寧に矯め、力を伸ばしてくれようとしているのだ。俊也はどうしても応えないといけない。
ここまでの修行を思い出し、俊也は魔法力を体の力に変えるため、全身にそれを行き渡らせるイメージで集中した。ややしばらくの間、魔法力は腕や脚の一部分に留まっていたが、彼は掴んだのだろう。俊也の身体に火の魔法力が巡り、燃え盛る炎の強さが全身にみなぎった。