第二百六話 高山瓜の修行・その3
剣神山の稜線を照らしていた秋の陽は傾き、ほとんど沈みかけている。山肌の小鳥たちはまだ盛んに囀っているが、辺りには山の冷える夜が訪れようとしていた。
初日の高山瓜の修行で、俊也はコツを掴むことが出来ている。脚部への魔法力の集中は、彼にとって非常に疲れるものであった。それでも休み休み高い跳躍を繰り返し、昼にはサクラと一緒に仲良く持参していた弁当を食べ、夜が来る前に何とか10個のノルマをこなすことが出来た。
「おう、遅かったの。10個もって帰れたか?」
「はい。時間がかかりましたが何とか」
俊也はノブツナの洞穴に帰ると、魔法のリュックに入れておいた高山瓜10個を茣蓙のような敷物に並べる。一個一個がなかなか大きいため、全部並べるとかなり茣蓙上の場所を取った。
「よし、良いじゃろう。まずまずじゃな。明日は30個じゃ。それはそれとして、この瓜を煮て食うとするか」
「はい。俺も腹ペコです」
「そうじゃろうな。腹いっぱい食うがいい」
修行は尋常ではなく厳しいが、それ以外の面でノブツナの見せる人間性はとても優しく、細かくこだわりがないものである。俊也はこの師の優しさと自分が、人としてとてもよく合っているように感じていた。
腹いっぱい食べ、しっかり熟睡した翌日。俊也は再び高山瓜が鈴なりになっている場所へ向かう。今日はサクラの姿が見えない。彼女はノブツナの洞穴で家事をするために残っていた。元々、サクラはノブツナに受けた恩を返すため、身の回りの世話をしに剣神山に来たのだ。本来の目的と言えよう。
「さあ、疲れるが今日も頑張ってみるか!」
魔法力による跳躍は、昨日で習得出来ている。後はそれに身体を慣らし、鍛え、跳躍の成功率を上げていくわけだが、かなり骨が折れる修行になるのは二日目の今日も間違いない。
独り、高所への跳躍を繰り返し、非常な疲労を重ねつつも、俊也はその日の晩にはノルマの30個を取ることが出来た。そして、ノブツナの洞穴で食事と睡眠をよく摂り、三日目のノルマ50個も何とかこなしている。洞穴の食料置き場は高山瓜だらけになった。
「よーし、良しとするか。では明日から違うことをするぞ」
「はい! わかりました! ですが、どのような修行でしょうか?」
「まあ、明日になれば分かる。今夜もゆっくり飯を食って寝ておけ」
三日目の高山瓜の修行をこなした俊也に、ノブツナは見極めを出したようだ。俊也の身体は、ここまでで以前と比較にならないくらい鍛えられ、その手応えを彼自身も感じている。次に師が課せる修行はどのようなものだろうか? 俊也は期待に考えを巡らせつつ、寝台で深い眠りに落ちていった。