第二百四話 高山瓜の修行・その1
俊也はサクラが用意した食料を、魔法のリュックに詰めて剣神山を登ってきた。その中には米やパンといった主食も多くある。ノブツナは山ではありつきにくい穀類を喜んで食べたが、米やパンがない山中の生活において何を主食にしていたかというと、今、修行の話題に上っている高山瓜である。これは中身が餅のようになっている瓜であり、煮ると中がトロトロになり、薄甘く美味しい。腹持ちも良く体の活力が充分つく。
「よし、来れたな。俊也、サクラ、見上げてみよ」
「これは……沢山、上の方になっていますね」
「そうですね。でも、とても高い所にあります」
ノブツナの洞穴から十数分くらい歩いただろうか。ノブツナに言われて二人が見上げてみると、丸く大きく熟した高山瓜が、上方の木の枝に蔓を伸ばしながらくくりつける形でそこから実がなっている。蔓は密集しており、なっている実は二百だろうか、三百だろうか、ひと目には数えられないくらい無数にあった。しかしながら随分高い所になっている。俊也の背丈の4、5倍は高さがあり、木登りをしないと実は取れそうにない。
「高山瓜を木に登って取る修行なのですか?」
「いやいや、それでは修行にならん。取る修行ではあるがな」
「?? ではどうやって?」
「飛ぶんじゃ。飛び上がるんじゃよ」
ノブツナが冗談を言っているとは思えない。しかし、この高さにある実をジャンプで取れるとは、全く俊也は出来ると考えていない。それを意に介さず、ノブツナは、
「はっ!」
と、脚に力を溜めたかと思うと、次の瞬間、高山瓜がなっている高枝まで飛び上がっており、地面に降り立った時には、手に熟した瓜を抱えていた。俊也もサクラもあまりのことに目を丸くしている。
(まるで天狗のようなお方だ……)
タナストラスで仰天するような体験は多くしてきた俊也であるが、黒石を粉々に砕いたり、今の跳躍といい、ノブツナの身体能力には畏敬と驚きを感じ得るしかない。
「これが手本じゃ。要領は黒石砕きと同じじゃ。もう一つサービスで言うてやると、脚に魔法の力を溜め、大地を蹴って解き放つ感覚じゃの」
「脚で蹴って解き放つ……わかりました! やってみます!」
「うむ。まず、今日は10個取ってみよ。昼飯はしっかり食えよ」
「ありがとうございます!」
俊也が気持ちのいい返事をすると、ノブツナは一人で帰っていった。サクラを付き添いで残してくれた形だ。師の言っていることは分かるものの、それがうまく実践できるか俊也は自信が持てていない。だが、やるしか道はない。