第二百三話 黒石から高山瓜へ
黒石砕きの修行を始めて二日目は30個、三日目は50個のノルマを課せられたが、俊也はそれらを疲労困憊ながら何とかこなすことができた。朝から黒石を砕き、二日目も三日目も夕方までそれを続ける。そして、疲れ果てた体を洞穴で休ませるサイクルを繰り返す。俊也はその中で日が経つにつれ確かな変化を感じていた。
(黒石が簡単に砕ける。泥団子を握りつぶしているような感じだ)
三日目の途中になると、魔法力を力に変換する能力が筋力トレーニングの要領で鍛えられたのか、最初はあれだけ硬く感じた黒石を握りつぶす時、俊也はそう思えるほどになっている。魔法力を使うため疲労が激しいのは変わりない。しかし、その日のノルマを終えた夕方の疲労は、初日に10個の黒石を砕いた時よりは軽く感じられるものであった。
「ふむ。よく辛抱に砕いたのう。燃料入れにも溜まってきたわい。よしとするか」
50個の黒石砕きを成し遂げた俊也は、夕食時にノブツナから見極めをもらうことが出来ている。鉄箱の燃料入れは黒石の粉が随分溜まっていた。これなら調理場で煮炊きをするのにも当分困らない。
「本当ですか! ありがとうございます! 次はどんな修行をするのですか?」
「かっかっかっ! 俊也、お主は純粋なやつじゃのう。次はな、お主が今食っているその瓜を取りに行くぞ。それは腹持ちがよく米の代わりになろう?」
「この瓜をですか? はい、食べると腹に溜まって力が出ます」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
そうとだけしかノブツナは言わず、またいつも通りサクラに酌をしてもらい、後は酔って四方山話をした後、ころっと小さな体を転がし寝てしまった。俊也は何となく肩透かしをくらったような気がしている。
「俊也さんも少し飲んでみます?」
そういう経緯で少し呆然としていたところに、緑髪の美少女の口から艶かしく不意をつく誘いの言葉が出てきたので、俊也はドキリとし、慌てて、
「いやいや! 俺は飲めません駄目ですよ!」
と、酒を断った。誰も見ていないのに未成年の手前をしっかり守る、馬鹿真面目な彼である。サクラはその慌てふためき様を見て、悪戯っぽく艶のある微笑みを浮かべていた。
そんなことがあったが、三人ともよく眠った次の日の朝。
「支度が出来たな。では、高山瓜を取りに行くぞ」
「あの美味しい瓜はたかやまうりと言うんですね」
ノブツナは俊也とサクラに足拵えをさせて、次の修行場へ連れて行こうとしている。高山瓜を取るのが、俊也に課せられる次の修行なのだろうが、どのような内容になるのか、ノブツナの後を追う彼には想像がまだつかなかった。