第二百一話 黒石の修行・その2
「わしでも力を込めるだけじゃ、黒石は割れはせんよ」
「? でも簡単に割られていたような気が……」
ノブツナの意図しているところが酌み取れず、俊也は混乱してしまっている。現に、先程ノブツナは右手で黒石を粉々に砕いた。その時、力を込めて砕いたようにしか見えない。
「俊也、お主は火の魔法が使えよう。発しておる剣気から分かる」
「はい。少しですが使えます」
「わしも魔法が使える。水の魔法じゃがの。それで魔法を使う時、掌に力を集中したりはせんか?」
「はい。それをやらないと、俺は魔法が使えません」
「うむ。わしも同じじゃ。まあサービスで大ヒントを出してやろう。一度しか言わぬからよく聞いておけ」
一言も聞き漏らすまいと、俊也は身を乗り出してノブツナの教伝が口から出るのを少し待った。黒石を砕くことができるかどうかの瀬戸際である。
「魔法を使う集中と同じイメージで掌に力を溜め、黒石を握ってみよ。うまくすると割れるじゃろう」
そうとだけ伝えると、ノブツナは洞穴にゆっくりと戻って行った。この日はまだ朝であるが、寝て待つつもりなのだろう。
(魔法を使うイメージで? でも、魔法は使わずにということだろうか?)
短いながらもノブツナはかなり具体的にヒントを出してくれた。ここからは俊也が考えて実践するしかない。彼は教えの言わんとするところを自分なりに考え、反芻し、
「よし! やってみよう!」
再び右手に黒石を持つと、火の魔法を掌に集中するイメージで、なお且つ、それを魔法として使わず力として溜めるように調整してみた。なるべくノブツナの教えに近づけようと努力している。
「はっ!」
そして力を黒石に込めると、今までびくともしなかったそれに、ヒビの筋が数本入った。手応えも確かなものがある。
「これか! こういうことか! わかってきたぞ!」
できなかったことができるようになる喜びは、どのような時でもその人に達成感の笑顔を与えるものだ。黒石を砕くコツを掴めてきた俊也は、満面の笑顔になり、コツをさらに確かなものにしようと、その場で正座の姿勢を取り、しばらく精神統一を行った。彼は剣神山の地や空気と一体になるような統一を得ようと試みている。
充分な精神統一を行った後、俊也はヒビが入った黒石を右手に掴み、先ほどと同じながらもさらに研ぎ澄まされた魔法の集中を掌に込めた。そして、
「はっ!!」
剣神山に響きこだまするかと思うような肚からの声を発し、黒石を握り込むと、掌のそれは見事に砕け、粉々になった。