第二百話 黒石の修行・その1
ノブツナの沈黙が長かったことから、俊也はここまでで何か気に障ることをしてしまったかと考えていたが、
「まあよいじゃろう。お主の剣は確かにまだまだじゃが、話していてわかった。俊也、お主は善いやつじゃ。善い人間に稽古をつけていたご先祖様に倣い、わしもお主を鍛えてやろう」
と、俊也の実直な人間性を認め、どんぐり眼の笑顔と共に修行をつける約束を言葉にしてくれた。
「本当ですか! ありがとうございます! どんな修行でもやり遂げます!」
探し求め、念願だったノブツナの稽古が受けられる。俊也はそのことが嬉しすぎて、気づくと自然に飛び上がって喜んでいた。傍で見ているサクラも、彼の喜びように微笑んでいる。同時に、俊也が大きな目的に取り掛かれたとも思い、サクラは安堵も感じていた。
「早速じゃが鍛錬をしてやろう。わしについて来るがよい」
「はい! ありがとうございます! どこへでも!」
俊也は修行を見てくれるのなら、比喩表現ではなく崖であろうが山肌の急流だろうが行くつもりであるが、ノブツナが連れてきたのは何のことはない、洞穴から出てすぐの調理場であった。
「ノブツナ先生、ご飯を作るところですよね? ここで鍛錬をするのですか?」
「そうじゃ。なーに、お主は嫌でもきっちり鍛錬をすることになる。心配するな。そこに真っ黒な石が沢山あるじゃろう? あれを使うわけじゃ」
調理場のほど近く、柱で木の屋根とひさしを支えている簡素な物置き場に、真っ黒な石が確かにうず高く積み上げられている。千個は優にあるだろうか。
「あれは煮炊きに使う燃料になってな。この山で採れる便利な石なんじゃが、そのままでは使えぬ。細かく砕く必要があるんじゃ」
「なるほど。あの黒石を砕くのが鍛錬になるんですね」
「うむ。まあまず、どうやるかわからんじゃろうから、わしが一つ手本を見せてやろう」
そう言うとノブツナは、なめらかな光沢を持つ黒石の一つを右手に持ち、ほんの少しだけ集中すると、
「ふん!」
力を込めた声と共に、なんと素手で硬い黒石を粉々に砕いてしまった。砕いた黒石の粉は、燃料入れとして使われている薄い鉄の箱に収まっている。俊也は何をどうやったのかと、即座に黒石を一つ手に取ってみて、ノブツナと同じように力を込めてみたが、びくともしない。
「今日はまず十個じゃな。なかなかそれを砕くのは面倒での。お主の鍛錬にも丁度よかったわい」
「ノブツナ先生! もう少しだけ黒石を砕く手がかりを教えてくれませんか!?」
どう力を込めても割れない黒石を右手に持ち、困惑している俊也を見て、ノブツナは苦笑しつつもヒントを一つ教授してくれた。