第二話 機転を利かせる明るい娘
さっきの事件があった教会から俊也の家まではほど近い。家には何事もなく帰れたが、この赤髪の少女サキはまだ俊也の手を握ったままだ。
「ここが俺の家だよ。ええとなあ……ここでは手は放しておこう。俺の親もいるし」
困っている俊也はとうとうサキへ手を放すように直接促した。そこで彼女はやっと彼の手を放し、
「ここまで来れれば安心です」
人懐っこい愛らしい笑顔を俊也に向ける。俊也もその笑顔を見て悪い気はしないのだが、この娘のことを両親にどう言うか、そればかりに頭を悩ませていた。
俊也の家は一戸建てで、4LDKの間取りがあり、一部屋一部屋の広さも8帖は少なくともある。なかなか立派な家である。考えていてもしょうがないと思い、彼はサキに手招きし一緒に玄関へ入ることにした。
「ただいま」
「お邪魔します」
玄関に入ると、母親がいつものように「おかえり」と言いながら迎えてくれている。常日頃なら学校の話などを母にしながら一杯冷たいものを飲み、二階の自室に上がるのだが、今日は謎の美少女サキがいる。俊也の母は、とても珍しいものを見るようにサキを見て、
「俊ちゃん珍しいわね~。ガールフレンドを連れて来たの?」
と、明るい間延びをした声を出し、改めてまじまじとサキを眺めていた。
「いや……そうじゃな……」
天然ボケが少し入っている母に、事情を説明しようとしかけたが、
「はい、俊也さんのガールフレンドでサキと言います。よろしくお願いします」
サキはそれを遮り、俊也の母がそう思った通りの自己紹介をしている。
「えっ!? ちょっと……」
(そういうことにしておきましょ。その方が今はいいと思います)
頬を赤くして慌てる俊也にサキは耳打ちでささやいた。彼女の透き通った声が耳に響き、心地よくくすぐったい。
「やっぱりそうなのね~。俊ちゃんやるじゃない。こんな可愛い女の子を連れてくるの初めてでしょ? サキちゃんちょっと待っててね。サキちゃんのジュースも持ってくるね」
「ありがとうございます。お母さん」
すっかりサキのペースで話は進み、ジュースを飲んで生き返った後、俊也の自室に行く階段を上がることができた。
俊也の部屋は男部屋ながら片付いていて、本棚にはマンガや小説もあるが、高校の参考書や問題集、また剣道の専門書が多くびっしりと並べられている。彼はかなりの勉強家なようだ。
サキは部屋を物珍しそうにあれこれ眺めていたが、俊也の機嫌はあまり良くない。
「部屋を見てもいいけど、先に色々俺に言うことがあるんじゃないかい?」
そう言われてやっと彼女は気づき、ベッドを椅子替わりにして座り、勉強机の椅子にだらりと緊張を緩めた様子で座っている俊也に礼と説明を言い始めた。
「先ほどは本当にありがとうございました。改めて自己紹介をします。私はこことは違う世界タナストラスから歪みを開いて来ました、加羅藤サキと言います。この日本へは、私のいる世界を救って下さる適性がある方を探しにやって来ました」
言っていることはさっきの事件時よりは分かるが、やはりこの娘はどこかおかしいんだろうかという気持ちを、俊也は持たざるを得ない。だが、サキの今話している目は真剣そのもので、俊也は一通りの話を全て聞いてみることにした。