第百九十九話 天女のような
サイクロプスからしたたかに打たれた身体の回復には、ノブツナの見立て通り2日ほどかかった。もっとも、俊也の回復力は高く、マウントオックスのステーキを食べ、サクラのアースヒールによる看護を受けて一晩眠った朝には、普通に動けるようになっている。だが、刀を激しく振れるほどではない。そのことを含めたノブツナの見立ては間違いがなかった。
喋るのは意識が戻った当初から問題ないので、俊也はノブツナと様々な話を回復するまでしている。ノブツナの話は俊也にとって非常に興味深く面白いものであった。俊也はサイクロプスから助けられた時、薄れゆく意識の中でノブツナの尋常でない身のこなしを見ている。そのことからそうでないかと彼は思っていたが、剣神山の剣神の子孫にあたるのがノブツナであるという話を聞き、納得すると同時にとても俊也は喜んだ。ノブツナの種族はホビットであるらしい。その系譜を継いでいるのもあり、その強さなのだろう。
「ご先祖様にあやかってというわけじゃないんじゃがな。わしは町に住むのが性に合わなくての。セイクリッドランドの錬成場を引き払ってから、この方ずっと剣神山に住んでおる。酒はめったに飲めんがの。かっかっかっ!」
「そうだったんですね。ふふっ、確かに酒は手に入りにくい処ですね」
「そう思って沢山ご用意して登りました。お一つどうぞ」
「おー! ありがたや。サクラのような可愛い女子に酌をしてもらうのなぞ何時以来かのう。極楽じゃわい」
慎ましく可憐な笑顔で、サクラはノブツナの杯に酌をしている。この小柄な剣神様は、天女に酌をしてもらっているような心地であり、この上なく上機嫌だ。
(サクラさんが来てくれていなかったらどうにもならなかったな。本当に助かった)
戦闘中の補助魔法や打ち身を負った後の看護、それにノブツナの機嫌を持つ大きなアシストまでやってくれているサクラは、俊也にとっても守護をしてくれる天女であった。
2日間しっかりとサクラの看護を受け、刀が振れる程に回復した俊也は、ここまで話に出さなかったイットウサイからの紹介状と許された目録を、ノブツナに見せている。
「イットウサイか、懐かしいのう。元気でやっておるようじゃな。それで俊也、お主はイットウサイから目録を受けておると」
「はい。目録までは何とか許されましたが、俺の剣はまだまだです。ノブツナ先生、俺に稽古をつけて頂けませんか?」
ノブツナは俊也の切なる願いの言葉にしばらく返事をせず、紹介状と目録をそのまま見続けた。




